上 下
401 / 698
風の憧憬

第400話

しおりを挟む

 「私」は、この世界の住人じゃない。

 …でも、わかったことがあった。

 おじさんや、キーちゃんが言っていたことだ。

 セカンド・キッド、そう呼ばれる人たちが、定まったはずの運命を変えられるという可能性。

 それが具体的にどういう意味を持っているか、まだ漠然とする部分は多いけれど、なんとなく、わかった。

 だってそうでしょ?

 この「時間」は、もう二度と存在することがないはずだった。

 どれだけ時間を遡っても、キーちゃんはたどり着けなかったんだ。

 昨日の中にあるはずの明日に。

 亮平に会えても、どれだけ類似した時間の中に立っても、彼は振り向かなかった。

 互いに別々の人生を歩むことしかできなかった。

 当然、思うようなストレートを、マウンドの上で投げることも。


 だけど、「私」は今ここにいる。

 蘇るはずがない現実の上に立ってる。

 それがどういう意味を持つのか、なんとなくわかった。

 時間に穴を開ける。

 確率の壁を越えられる。

 そういう言葉の向こう側にある意味を、追うことができた。


 ここに“いない”からこそ、ここに「存在」できる。

 ややこしいけど、きっとそういうことだ。

 ここは「過去」でも、「未来」でもない。

 きっとまだ、「今日」に届く可能性がある場所。

 そういう表現以外に、うまく思いつかない。

 でも、そこまで的は外れていないと思う。

 遠からずって、感じかな?

 確かめる方法なんてないけど、自然とそう思えたんだ。

 スタスタと歩く足音の横で、彼が、くだらない話で笑いながら、大きなあくびをするのを見て。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

雨上がりに僕らは駆けていく Part2

平木明日香
青春
学校の帰り道に突如現れた謎の女 彼女は、遠い未来から来たと言った。 「甲子園に行くで」 そんなこと言っても、俺たち、初対面だよな? グラウンドに誘われ、彼女はマウンドに立つ。 ひらりとスカートが舞い、パンツが見えた。 しかしそれとは裏腹に、とんでもないボールを投げてきたんだ。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...