雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香

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風の憧憬

第397話

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 「…それでさ、健太に言ったんや。究極のチャーハンはパラパラとべちゃべちゃの中間にあるって」


 学校に向かう道中にペラペラと何か喋ってる彼の言葉が、耳に入ったり出たりしていた。

 返事はしてた。

 「うん」とか「はい」とか。

 でもあんまり適当なもんだから、そのうちに怒られた。


 「ちゃんと聞いてんのか?」


 彼の方に目をやると、清々しいほどのムスッと顔。


 「…あ、ごめん」


 ちょっとそれどころじゃないんだよ。

 忙しい。

 忙しいというか、考えなきゃいけないことが…


 学校へと続く坂道を上りながら、24センチのスニーカーを地面の上に乗せる。

 私よりもキーちゃんは身長が高いから、歩いている目線も違う。

 胸も少し大きい。

 高1の頃は大体一緒だった。

 銭湯に行った時に比べ合いっこしたんだ。

 微妙に勝っているぽかったからガッツポーズで露天風呂に駆け込んだら、調子に乗るなって怒られたっけ。

 女っ気がないキーちゃんのことだから、どうせ気にしないとは思ったが、案外気にしていたことを覚えている。

 てかキーちゃんにだけは負けたくない。

 女子力がない私も、さすがにキーちゃんよりはマシだ。

 …と、思っていたのだが…



 「千冬はどっち派?」

 「…なにが?」

 「チャーハン」


 …チャーハン??


 …ああ、パラパラ派かべちゃべちゃ派か?

 っていう話だよね?


 …うーん。


 「…パラパラ」

 「わかってねーなお前も」


 いやいや普通に考えてパラパラじゃないのか??

 べちゃべちゃのチャーハンなんてお粥じゃあるまいし。


 って、チャーハンなんて今はどうでもいいんだ。

 途中電柱にぶつかりそうになりながら、塗装の剥げた白線の上を歩いた。

 自転車を押しながら汗が滲んだ。

 阪急六甲の北西、護国神社を北に向かったところにある急坂。

 神戸でも一番きついと噂のこの長峰坂は、神戸高校の生徒にとっては苦行だった。

 坂の途中から見える街の景色は、最高なんだけれど。
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