雨上がりに僕らは駆けていく Part1

風の憧憬

第３９５話

　「2人」は日常の中にいた。

　決して特別なんかじゃない1日の中に。

　世界の色が透けて見えて、午後のまどろみは淡い日差しの中に溶け込んでいた。

　何かが壊れてしまいそうなほどに憂鬱な空と、通い慣れた道。

　これから何かが始まるには、時間の流れが穏やかだった。

　何の変哲もない金曜日。

　「今日は部活休む」って、キーちゃんが彼に言ったんだ。

　そしたら、映画見に行こうって。

　選手じゃなく、マネージャーになる。

　監督に昨日言ったことを、彼は知ってた。

　キーちゃんは、もういいと思ってたんだ。

　試合に出ても、役に立てない。

　足手まといになるんじゃないか、——と。


　『いいの？あんたまで部活サボって』

　『問題ない。今からバッティングセンター行くし』


　この2人の会話が、1秒後の世界にあった。

　ラインの返信のあとに見上げて、スマホゲームに没頭してる彼に、キーちゃんが問いかけた。

　私のことはほっといてと、言うつもりで。

　でも亮平は、ほっとくつもりがなかった。

　一緒にフィールドに立ちたいと思っていた。

　最後の夏が、目の前に控えていたから。

　

　学校の職員室に立ち寄った後、灘区の3丁目にできた王子動物園近くのバッティングセンターに行く。

　そのせいで帰りが遅くなった。

　明日は学校がなかったし、家に帰っても、とくにすることがなかったから、別に問題はなかったが。

　明日の昼、一緒にキャッチボールしようと、帰り際に亮平が言った。

　その時の映像が、液晶画面で映したようにくっきりと蘇った。

　「それ」が何を意味するのか。

　明日、何が起こるのか。

　全部わかった。

　海辺のキャッチボール。

　シャワシャワと唸る光のそばで、彼が投げかけてきた言葉。

　——唐突なSの綴りが、響いたことを。