雨上がりに僕らは駆けていく Part1

キミがいる街

第３９２話

　運命を変えられる一瞬は、「今日」の中にしかない。

　それは別に大げさなことじゃなくて、ごくごく当たり前のことなんじゃないのかなと思う。

　ひとつの選択が、ひとつの結果を作る。

　だから、「今」という時間の中にしか、現実は存在できない。

　選択をやり直すことはできない。

　きっと、それは“永遠“なんだと思う。

　限りなく短い刹那の中に、永遠に変えることができない結果がある。

　1秒と、1回。

　「私」は、まだ、そこに存在することができないらしい。

　そのかわり、どんな「時間」にも移動できる。

　それがたとえ、雨が降る前の世界でも。


　トンネルの出口から光が見えて、座席の頭にもたれかかりながら、2人のことを考えていた。

　2人は、きっと結ばれたはず。

　亮平が事故に遭わず、生きていれば、——きっと。

　何もかもが瑞々しく思えたあの朝、須磨の海は、世界でいちばん青かった。

　彼に届けたい言葉。

　告白の返事。

　それがもう二度と、届かないとわかっていながら。


　「千冬」


　その声は、唐突に耳の中に響いた。

　トンネルを抜けた先の、光の海の中で。

　前触れはなかった。

　現実と夢の境界が、どこにも見当たらないほど。

　いつからそこにいたのかと疑ってしまうほど、くっきりとした時間の中に存在する彼の姿が、連続する視界の中心にあった。

　それは私が知っていた光景だった。

　キーちゃんの記憶の中で、見た光景だったからだ。