雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香

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キミがいる街

第385話

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 キーちゃんの記憶を通じて、この世界の「私」のことを知った。

 どこに住んでいるのかとか、どんな関係だったのかも。

 亮平は覚えていないようだったが、子供の頃、3人は一緒に、須磨の海にいた。

 小4の時に、たまたま宿泊学習で同じ班になった時だった。

 「私」は、その時に初めて、この世界の2人と会話した。

 クラスが違ったし、キーちゃんとの接点が、ほとんどなかったからだ。

 でも、キーちゃんの方は、「私」のことを知っていた。

 この世界線が生まれるよりも、ずっと前から。


 けど、彼女は私に会わないようにしていた。

 理由はわからない。

 ただ、“関わりを持たない“と心に決めて、避けていたみたいだった。

 彼女が渡ってきたたくさんの世界で、何かあったには違いなかった。

 でも、その具体的な「記憶」は追えなかった。

 思い出そうとしても、ノイズが走った。

 電波が悪い、ブラウン管テレビの画面のように。


 2泊3日の旅行だった。

 同じ電車に乗り、隣の席同士で、色々話した。

 行き先は、『神戸市立自然の家』っていうところ。

 朝からリュックサックを背負い、須磨駅に全員集合してから出発した。

 最寄りの六甲駅で降りて、山の麓まで徒歩で向かった。

 そこからロープウェイを使い、「摩耶ロープウェー星の駅」まで。

 駅からは30分くらい歩いた。

 緑に溢れる景色の横で、ツクツクホーシが鳴いていた。

 皆ドキドキしていた。

 でこぼこ道を歩き、ロープウェイまで使って山に登り、どこに行くんだろうと。

 途中で拾った枝を杖代わりに、道ばたの石ころを転がす。

 ポケットには内緒で持ってきた飴玉。

 森の奥へと進んでいく歩幅が、狭まることはなかった。

 何が始まるんだろうと足を動かした先で、黒瓦の大きな建物が見えた。

 周りには何もなかった。

 森と、道と、藁葺の倉庫と。

 木の影は、真昼の陽の中で地面の上を泳いでいた。

 カヌーの浮かぶ穂高湖は、物静かな森の風景を、大きな水面の上に広げていた。

 ちょうど紅葉が赤色になりかける時期だった。

 川べりの土は湿り、木の葉の間を通り抜ける九月。

 街は遠くに感じられた。

 運動靴の底に感じられる乱雑な石の感触は、アスファルトにはない土の硬さを、どこまでも根深く重ねていた。

 ガードレールのない斜面の下で、苔の生えた岩肌が横切る。

 細道、草むら、川のせせらぎ、——海のような平野。


 子供たちみんなでご飯を作った。

 枯れ枝を集めて焚き火をしたり、湖で取れた魚を焼いたり。

 夜は枕投げ大会をした。

 トランプに怪談話も。

 おばけが大の苦手な亮平に、容赦なく話をブッ込むキーちゃん。

 楽しい3日間だった。

 最終日、みんなとは駅で別れ、私たち3人は海岸に寄った。

 キーちゃんが先頭に立ち、「また一緒に遊ぼう!」って言ったんだ。

 それはきっと、彼女なりの“合言葉“だったんじゃないだろうか?

 遠い過去と、遠い未来を結ぶ、彼女だけが知る、——”時間”。
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