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キミがいる街
第381話
しおりを挟む「私が違う世界から来たって話なんやけどさ…」
目を閉じて、考えた。
顔に乗せた自分の腕が重すぎるくらい、ずっしり来る。
瞼の奥で暗闇を追った。
自分がどこから来たかを、探そうとした。
交差点のあの事故…
直前に映った信号機の色…
「…あぁ」
彼は得心したようでも、疑問を投げかけるわけでもなかった。
ちょうどその中間くらいの息遣いが、水平に落ちてきた。
困惑してるのは、間違いなかったけど。
「私はキーちゃんと友達やった。あんたとも。その意味はわかる?」
「…いや」
そうだよね。
わかるよ。
自分でもよくわからないんだ。
「自分」がどこにいたのか。
「でも実際そうやったんやで?」
「…」
「あんたは学校にも行かずふらふらしてて、キーちゃんと私は同じ高校に行ってた。最初にも言ったけどさ」
「違う「世界」…」
「それ以外になんて言えばいいのかわからないから、とりあえず「世界」って言ってるけども。他になんかある?」
「他にとは?」
「違う世界、違う時間。そういう表現以外に」
「…そんなん分からん」
「…そっか」
「…千冬は元気にしとる?」
「…え?」
重々しい口調でそう言った。
埃の被ったペンダントライトの下で、勉強机の上に肘をつき。
散らかった以前の部屋とは、比べ物にならないくらい綺麗に片付いている。
きちっと並べられた本棚。
小難しい資料やらエッセイで埋められ、下段に漫画。
『
私も知ってる漫画だ。
読んだことはない。
アニメは毎週木曜にあったっけ。
時々、それを見たことはあった。
「信じてくれるんや?」
「そういうわけやない」
「じゃ、どういうわけよ(笑)」
「…話を聞きたいと思って」
回転式の椅子の上で、クイッとメガネの位置を整えている。
…似合わないなぁ
彼の後ろの壁にあるポスターが、ふと目に入った。
モダンアートなポスター。
きっと、部屋を映えさせるためのアイテムなんだろう。
そう思ったのは、デザインが統一されていたからだ。
部屋全体の。
少なくとも、「寝れればなんでもいい」と言っていた彼の部屋じゃない。
「メガネ外してみて?」
「なんで?」
「いいから」
ベースが白の内装。
構造は変わってない。
けど、まるで別物。
空気洗浄機なんて、いつ買ったんだ??
CMでしか見たことがない霧ヶ峰のエアコンは、扇風機をガン回しにしてた部屋とは考えられないくらいに、涼しい空気を連れてくる。
片隅に置かれた背の高い観葉植物。
ハンガーにかけられた、シワひとつ無いシャツ。
もしもし?と、尋ねたくなった。
机の上のハンドジェルなんて、何に使うんだよって思っちゃうくらい、小洒落たアイテムじゃないか。
謎に多い、ネクタイピンとベルト。
棚の上に飾られた、ナイキのシューズ。
そういえば、ベットも新しくなっている。
ギシギシ鳴って、底の方なんか一部サスペンションが壊れてたのに、やけに寝心地がいい。
耳鳴りがするほどの、“そうじゃない感“。
昨日まですぐ近くにいた「彼」を思い出そうとした。
だから、メガネを外してほしいと頼んだ。
渋々、彼はそれを外した。
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