雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香

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【第6章】バッテリー

第359話

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 キーちゃんの脅しにどうすることもできず引っ張り出された彼は、キャッチャーミットだけ持ち、自転車に乗った。


 「まじでふざけんな」

 「なにが?」

 「せっかくの休みやったのに…」

 「私の専属キャッチャーなんやから、練習に付き合うのが当然やろ」

 「いつも付き合っとるやんけ」

 「練習しない日なんてありませーん」

 「…わかっとるけど、来るなら来るで電話の一本くらいよこせや」

 「めんどくさい」

 「…こいつ」


 坂道を駆け抜ける車輪の音。

 地面を滑るタイヤの熱が、夏の日差しに焼けたアスファルトの熱気と混ざり合い、道端のアサガオを揺らす。

 空には汗が流れていた。

 須磨。

 そして海。

 街に近づくにつれて、海岸線沿いの「青」が近くなった。

 丘の下まで伸びていくガードレール。

 水の匂いが鼻を掠めて、穏やかな午後に一息つくかのような雲の流れが、街の端々まで続いていた。

 街の隣で、さやさやと揺らめく、波。

 波の表面を掠めていく、光の粒。

 2人の背中を追いかける風は、どこか、涼しかった。

 建ち並ぶビルと、ギラギラの反射光が、地上の全てを覆い尽くすかのようにざわめいていた。

 車の音や街の喧騒が次第に大きくなる一方で、ジリジリと降る直射日光は、湯気のように沸き立つ靄を漂わせた。


 ——雨上がりの、街。


 それは2人にとって、特別な時間だった。

 当時は、お互いに、そのことに気づいてはいなかったけれど。
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