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少年とヒーロー
第354話
しおりを挟む人々の頭の中には、漠然とした不安があった。
それは直接的な物的被害に対する懸念だけにとどまらず、衝突後の状態がどの程度の環境被害を及ぼすのかを、明確な数値として把握できないためだった。
当然報道では、各専門家の意見や見解が飛び交っていた。
その中には、実際の結果に近い状態を物理的に算出している内容も数多く存在した。
しかし「出来事」自体の前例がない以上、社会的にそれは想定の域を出ず、「現象」としての直接的な対策のアプローチを1つの実践として展開、投与するものにはならなかった。
専門家の中の総意としては、小惑星の大きさから、衝突地点から約2000キロ以内は数分以内で壊滅的な被害を受けるとされ、マグニチュード10以上のエネルギーが、衝突地点から波のように全世界に伝わっていくのではないか?というのが主立っていた。
いずれにしても、報道の背景には危機的状況に対する強いメッセージと、避難活動に向けた全面的な協力要請があった。
全ての公共機関や公共施設は災害に備えた国際的行動に注視され、国境間の検問所は一時的な凍結をもって迎えられた。
それは文字通り、“異例“な出来事だった。
『1981 QB 』と名付けられた小惑星のリアルタイムでの接近状況が衛生通信を軸に伝えられる中、各国の政府はできるだけ混乱を生まないようなメッセージを発信し続けた。
過去に起きた巨大地震や異常気象にも十分な対応と対策ができるようになってきた時代に、「避難」のためだけに注力せざるを得ない状況が起きていることは、それが一般的な自然災害に分類される「警戒レベル」の範疇には無いことを、顕在的に伝える声でもあった。
人々の不安の中心にあったのは、こうした予測できない事態の“巨大さ“であり、それが出来事の”外側”からやって来ることだった。
メディア間で必死にやり取りを行なっていたカナダ放送局のキャスターの1人、デビット・クーパー氏は、出来事のショックに現場で倒れるほどだった。
CNN放送局のアンディ・クルーズ氏は、混雑する州間高速道路285号線(アトランタ郊外)の交通状況を取材中に、家族からの電話が入ってきた。
アトランタのブルックウッド地区に住んでいたアンディ氏の家族は、避難勧告を受けてハーツフィールド国際空港に向かっていたが、あまりの混雑に身動きが取れない状況にあった。
多くの人が街に出て逃げ惑う中、涙ながらに電話をかけたのは、息子のヘンリー君だった。
当時10歳を迎えたばかりの彼が父親にかけた電話の内容は国際ニュースに取り上げられ、アメリカ国内の混乱を映し出す映像とともに、繰り返し放送された。
オーランド国際空港(ORL)では国際便に乗り込もうとする乗客に溢れ、施設内での発砲事件が発生した。
混乱が生まれるアメリカ国内の各地では、こうした暴動や犯罪が短時間で多発するようになっていた。
それは突如発表された国際的な避難勧告に対する緊急性だけではなく、事態の緊急性に対する具体的な対応と対策が、一貫した指導の元に行われていなかったことも、そうした混乱を招く直接的な一因となっていた。
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