雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香

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少年とヒーロー

第346話

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 「ええ、そうみたいね…」


 そう言うより他になかった。

 あるいは「言葉」は、他に必要な何かを語る範囲を持っていたかもしれない。

 ただ、キーちゃんの口から出た言葉の韻は、時間の流れには逆らわなかった。

 坂道から転がるボールと同じで、その流れは純粋な軌道を辿っていた。

 それでいて滑らかな回転を催していた。

 障害物がなく、凹凸も何もないまっさらな坂道を転がり落ちていく様。

 初めからブレーキをかける術がないように、それは自然にもっとも近い重力加速度を持っていた。


 「アメリカにいる知人には連絡を取ってみたんだけれど」


 ニュースを見て、小惑星の落下軌道がメキシコ湾周辺に到達する見込みであるということを聞き、慌てて電話をかけたのだった。

 電話先のマサチューセッツ工科大教授リチャード•クーパーは、キーちゃんの問いかけに応じた。


 「こっちはとくに問題はないよ」

 「本当に?」

 「ああ、ただどこかでサイレンが鳴っていてね。大学内も今急遽人が集まっている」

 「なにか異変とかは?」

 「とくにない。いつも通りの昼前だよ。朝の講義を終えて、コーヒーを入れたところだ」

 「こっちは今、孫を連れてKGUに向かっているわ」

 「…そうか。とにかく気をつけてくれ。こっちはこっちでなんとかしてみる。君はもう歳なんだから、無理はしないように」


 報道直後のアメリカ国内は、パニックというよりもむしろその情報が信じられないといった様子だった。

 リチャード氏も同様だった。

 災害と呼ぶのはあまりにも前例がないその出来事に、どう対処すればいいかもわからない人が、大多数を占めていた。


 しかし時間が経つに連れて事態は悪化した。

 リチャード氏は避難のために空港に向かっていた道中、騒ぎの中心にあった都市部での避難経路内で反対車線に乗り込んできた暴走車両と接触し、命を落とした。

 報道から約3時間後のことだった。
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