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夏空
第327話
しおりを挟む「知ってた?今日は曇りのち晴れなんだよ」
ちょうど、静寂の空気をかき消すように響いたその「声」は、どこか、しおらしくも聞こえた。
脆弱な「音」と呼ぶには、はっきりとしすぎる“なにか”を見据えていた。
今日の天気が、特別なんだと教えるかのような、“なにか”。
「知ってる。朝、ニュースで言ってたから」
キーちゃんは、小さく頷いてた。
それでいて遠くを見てた。
雲の向こう、そのずっと遥かな先の「空」を。
「ここは“境界”なんだ」
「…境界?」
「うん」
キーちゃんがそう言うと、突然空模様が変わった。
雨が降ってきたんだ。
雲が躍動し、周りが急に暗くなった。
そう思いきや、そこにはあり得ない光景が広がった。
空が二分化されたように、晴天が、世界の半分を覆ったんだ。
“覆った“という言い方は、もしかしたら間違いかもしれない。
空一面を埋め尽くしていた雲が、ちょうど真ん中から切り離されたように後退り、綺麗な晴れ間が姿を現した。
それはまるで、剣で真っ二つに裂かれたかのような鋭さが、目まぐるしい事象の変化の中に滑空し、「空」を分断するかのようだった。
………
……
…
曇りと、晴れ。
上空一万メートルの先で、2つの空が綺麗に並んでいた。
キーちゃんと、私とを隔てて、雨と晴れが、交錯する。
グラウンド上には、くっきりとその明暗が分かれていた。
片方には雨が降り、片方には明るい光が差し込む。
そんなの、見たことなかった。
雨と晴れが、互いの色を失うことなくぶつかって、混ざり合う。
常識的に考えて、…ありえない。
目を奪われていると、キーちゃんは言った。
「ここは、——マルチバース。つまり、“ベッケンシュタイン境界”。そう、呼ばれるところだよ」
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