雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香

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夏空

第325話

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 しばらくして、亮平たちがグラウンドに入ってきた。

 何度も練習したんだと思わせる足取りで、キレイに整列しながら。

 全国の高校が一同に集う入場行進は、圧巻だった。

 各高校によって雰囲気も違うし、歩き方も違う。

 けど、みんなが同じ場所を目指して、同じ道の上を通り、陽に照らされた土の上を歩いてた。

 きっと、この瞬間は、人生で一度きりなんだと思う。

 今、この瞬間に同じ目線で、同じ時間の上に立てるのは、きっと、「今日」だけ。

 真夏の日差しの中には、手には触れられない「一瞬」がある。

 全力で走った先に流れる、汗。

 本気で1つのことに向かって、たった1つのボールを追いかけて、…それでもまだ、届かない「今」があって、——群青に響くサイレン。


 空のスピードに追いつける。

 そんな限りなく速い一瞬の最中に、プレイボールの合図は鳴るんだ。

 次の瞬間には、失ってしまうかもしれない「今」を、追って——。


 グラウンドの上に立つ亮平は、「今」を生きてた。

 見慣れないユニフォームを着て、陽に焼けた帽子の下で、にやける様子もなく。

 私が知ってる亮平は、キーちゃんにも負けないくらいの「夢」を持ってた。

 でっかい、物差しじゃ測れないくらいの、夢を。

 普段の空よりも、一段と高く見える甲子園球場の空の下で、この世界の“彼”も、きっと同じなんだと思った。

 まっすぐ追いかけたいものがあって、手にしたい「瞬間」があって、ここに来てる。

 小学生の頃の彼は、

 「強くなりたい」

 って、いつも言ってた。

 なんだかずっと、昔のことのように思えてしまうけど。


 剣道着姿の彼は、ひたすら前を見てた。

 目の前の相手に正対し、竹刀を握りしめていた。

 生きるか死ぬかの瀬戸際に、剣を振る。

 そのためには一歩、前に進まなきゃいけない。

 「待つ」だけじゃダメだって、自分から動いていかなきゃダメなんだ、って、そう言ってた。

 迷ったら、その時点で負ける。

 だから、ずっと練習してた。

 朝も、夜も、バカみたいにひたむきに。
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