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「今」を越えられるスピード
第317話
しおりを挟むいそいそと靴を脱ぎ、中に進んだ。
キーちゃんの部屋の場所は、変わってなかった。
家の奥にある、可愛らしい小部屋。
テラスからは緑が見える。
街の喧騒から離れたこの場所は、風の音がよく響くんだ。
木々の隙間から通り抜けた音色が、網戸を揺らし、涼しい時間を連れてくる。
ドアを開けた先で、どこからか声が聞こえた気がした。
部屋は変わってない。
そう思えたのは、開いた先に触れた空気が、記憶の底にある距離を連れてきたからだ。
忘れようにも忘れられない、古びた時間。
見た目だけで言えば、亮平の部屋みたいに様変わりしてた。
サイエンスグッズはどこにもないし、いつも散らかってた床周りがスッキリしてた。
カーテンの色も、ベットの位置も。
クローゼットの中の服も、変わってた。
カラフルだった。
服装に無頓着で、いつもスポーツウェアばかり着てたけど、ワンピースとか、スカートとか、可愛いデザインの服が、所狭しと並んでた。
カーペットの色は、優しいクリーム色。
棚の上のぬいぐるみ。
カレンダーの猫。
見た感じ、「女の子の部屋」って感じだった。
もちろん、野球の道具もポスターもある。
けど、全体的に見てキーちゃんの部屋っぽくなかった。
ソファの上に立てかけられたクッションは、ふわふわもちもちのカワウソ。
キーちゃんが、カワウソのクッションを抱いてくつろいでるのを、うまく想像できない。
何もかもが、変わってた。
それなのに何故か、“変わってない“と思えた。
ここに、キーちゃんがいる気がした。
私が知ってる、彼女が。
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