雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香

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現在の岸辺

第308話

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 空はどんどん暗くなり始めた。

 途中でバスを乗り降りして、ルートを変えてみたりもした。

 でもわからなかった。

 見たことあるかも!と思い駆け足で降りても、すぐに気のせいだと思えた。

 バスを降りた先の街の景色は、どこか遠かった。

 砂漠のど真ん中に立っているような、果てしない距離感。

 錆びついたガードレールも、背の高い歩道橋も、見慣れた自動販売機のデザインさえ、「ウソ」に思えた。

 周りの景色は全部、「知らない」と思えるものばかりだった。

 ただ「知らない」ってだけじゃなくて、そこにあるのが不思議にさえ思えるような、“透明な物体“というか…


 ひと通り走り回って、何も見つからないままに終わった。

 何時間経ったっけ…?

 時計を見たら19時を過ぎてた。

 岡山市南区藤田っていう所に今はいるみたいだけど、そんな地名、見たことも聞いたこともない。

 まあ、そんなに簡単には見つからないだろうとは思っていたが、案の定…って感じか。

 想定内と言えば想定内だが、がっくりきた。

 手がかりの1つくらいはあって欲しいんだけどなぁ…


 「どうしよ…」

 「収穫なし?」

 「うむ」

 「ハハッ」

 「なに笑っとんねん!」

 「やけに必死やなあと思って」


 そりゃ必死になるさ。

 「自分」がどこにもいないんだ。

 本当に困った。

 あんたももっと焦るべきなんだよ?

 好きな人が私に乗っ取られてるんだ。

 このままじゃ永遠に告白の返事を得られないぞ?

 それでいいのか?

 どうせ、フラれるんだろうけどさ。

 キーちゃんがあんたのことを「好き」っていう気配を、今まで感じたことがない。


 …ってか冷静に考えて「好き」ってなんだ…?

 あんた、ずっとそんな目でキーちゃんのことを見てたのか?


 「…きもちわる」

 「は?なんや急に」

 「いつから好きやったん?」

 「…え?お前のこと?」

 「…うん」

 「さあ、いつからやろな。「好き」っていうか、「勝ちたい」っていうか」

 「勝ちたい??」

 「俺が野球を始めたんも、千冬の背中を見てきたからやし。野球以外に興味なかったもんな?昔からお前は」
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