雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香

文字の大きさ
上 下
303 / 698
現在の岸辺

第302話

しおりを挟む


 電車は岡山に向かって走った。

 ガタンゴトンと揺れながら、加速していく。

 自分がなんで岡山に向かってるのか、その“理由”はわからない。

 そもそも、「自分」がいないなんて想像もできない。

 ここにこうしているわけだし、「姿」が違うだけで…


 これから向かう先に、「自分」がいるのかどうか。

 スピーディーに動く景色のそばで、街は遠ざかっていった。

 もっと、地元の中を探せば良かったかな?

 そんな気持ちに囚われながら、地図を見る。


 えーーーっと、…私の家は…


 「一回行ったことあるんやろ?」

 「うん、まあ」

 「どんな家やったん?」

 「えー…、よく覚えてないけど、わりかし大きかったで」

 「一軒家?」

 「うん。新しかったし、今風の家やったかな」

 「で、なんでそこに?」

 「用事があるから」

 「用事…か」


 亮平はため息混じりに私を見て、「俺、フラれたんよな?」と言ってきた。


 …フラれた?


 「…あぁ」と思いながら、逆に問い詰める。

 あれってほんまに告白やったん?

 って。


 「えぇ…、今さら?告白やなかったらなんやねん逆に」

 「つまり、…好きってこと?」

 「それ以外に何があるん?」


 この「世界」のことをよく知らない。

 仮にここがキーちゃんの記憶の中なら、ここはすでに「実在してる時間」、ということになるのか…?

 でもよく考えてみて?

 キーちゃんも亮平も、高校3年生だ。

 ってことは、ここは「私」にとっては、未来になる。

 「未来」っていうのは、つまりそういうことで…


 冷静に考えて、“未来にいる”なんておかしい話だ。

 もちろん「未来がある」っていうのは、誰にでも分かるよ?

 未来は必ず訪れる。

 でもだからといって、「未来がある」っていう話と、「未来にいる」っていう話は、根本的に話が違う。

 2022年の世界に行った後も、そう思った。

 50年後から来た亮平のことも。

 ”未来にいる“っていうのは、未来がすでに存在してるっていうことだ。

 ややこしいけど、そういうことになる。

 1秒後の世界が、1秒後にある訳じゃなく、すでに存在してる。


 …そんなことってある?

 …だって、もしそうだとすれば、私が元々いた「世界」っていうのは、いったいどの「時間」なんだ?!ってことになるし…


 過去?

 未来?

 それとも、現在?


 難しいことだらけで、なにを基準に状況を整理すればいいかもわからない。


 『世界にはさまざまなパターンが生まれた』


 おじさんはそう言ってた。

 パターン、…つまり、「たくさんの時間」が。

 でも、バカな私にとっては、時間は常に一つだって思える。

 今、この瞬間、目の前にあるものだけが、世界の全てであるように思えてしまう。
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...