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現在の岸辺
第302話
しおりを挟む電車は岡山に向かって走った。
ガタンゴトンと揺れながら、加速していく。
自分がなんで岡山に向かってるのか、その“理由”はわからない。
そもそも、「自分」がいないなんて想像もできない。
ここにこうしているわけだし、「姿」が違うだけで…
これから向かう先に、「自分」がいるのかどうか。
スピーディーに動く景色のそばで、街は遠ざかっていった。
もっと、地元の中を探せば良かったかな?
そんな気持ちに囚われながら、地図を見る。
えーーーっと、…私の家は…
「一回行ったことあるんやろ?」
「うん、まあ」
「どんな家やったん?」
「えー…、よく覚えてないけど、わりかし大きかったで」
「一軒家?」
「うん。新しかったし、今風の家やったかな」
「で、なんでそこに?」
「用事があるから」
「用事…か」
亮平はため息混じりに私を見て、「俺、フラれたんよな?」と言ってきた。
…フラれた?
「…あぁ」と思いながら、逆に問い詰める。
あれってほんまに告白やったん?
って。
「えぇ…、今さら?告白やなかったらなんやねん逆に」
「つまり、…好きってこと?」
「それ以外に何があるん?」
この「世界」のことをよく知らない。
仮にここがキーちゃんの記憶の中なら、ここはすでに「実在してる時間」、ということになるのか…?
でもよく考えてみて?
キーちゃんも亮平も、高校3年生だ。
ってことは、ここは「私」にとっては、未来になる。
「未来」っていうのは、つまりそういうことで…
冷静に考えて、“未来にいる”なんておかしい話だ。
もちろん「未来がある」っていうのは、誰にでも分かるよ?
未来は必ず訪れる。
でもだからといって、「未来がある」っていう話と、「未来にいる」っていう話は、根本的に話が違う。
2022年の世界に行った後も、そう思った。
50年後から来た亮平のことも。
”未来にいる“っていうのは、未来がすでに存在してるっていうことだ。
ややこしいけど、そういうことになる。
1秒後の世界が、1秒後にある訳じゃなく、すでに存在してる。
…そんなことってある?
…だって、もしそうだとすれば、私が元々いた「世界」っていうのは、いったいどの「時間」なんだ?!ってことになるし…
過去?
未来?
それとも、現在?
難しいことだらけで、なにを基準に状況を整理すればいいかもわからない。
『世界にはさまざまなパターンが生まれた』
おじさんはそう言ってた。
パターン、…つまり、「たくさんの時間」が。
でも、バカな私にとっては、時間は常に一つだって思える。
今、この瞬間、目の前にあるものだけが、世界の全てであるように思えてしまう。
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