雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香

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【第5章】失われた時の中で

第290話

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 頭が真っ白になった。


 「好き?」


 確かにそう言ったよね?

 照れ臭そうに目を逸らす彼を見て、言葉の重力が、一気に重みを増す。

 唐突に放たれた「好きSUKI」という言語が、滑走路のない地面に不時着し、不安定に揺れる。


 「す、すす、好き!?」

 「何回言わせんねん…」


 なんだ

 一体なんなんだこれは。


 一体どんな「世界」に、私はやってきたんだ…?


 「時間」が停止する。

 面と向かって「好き」なんて、そうそう言われることじゃない。

 しかも相手はあの「亮平」だ。

 なにかの間違いなんじゃないだろうか…?


 「好きって、…どういうこと?」

 「…えぇ…」


 また、頭をポリポリ掻いている。

 いや、今度はゴシゴシか。

 勢いよく後ろ頭を左手で掻いたあと、

 「俺と付き合ってくれんか?」

 って、まっすぐ言ってきた。

 その「言葉」とともに、つむじ風が吹き抜けた。

 回転する空の下で、穏やかな雲の流れが通り過ぎる。

 シャワシャワシャワというセミの声が、いっそうと高く響き始めた。

 しなやかに伸びる「声」。

 それは亮平の声も同じだった。

 …まるで、世界の中心を歩く足音のように。
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