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この世界のどこかいるキミへ
第258話
しおりを挟む何度も謝って来る楓のことを、正面から受け止めることができなかった私は、子供だったんだ。
だけどこれだけはわかってほしい。
楓のことが嫌いだったわけじゃない。大好きだったよ。
登下校の帰り道、私の後ろで、いつも1人の女の子が歩いてた。
うるさくて、やけに元気で、華奢な体のその子の影が、アスファルトの上でダンスする。
歩き方も、仕草も、些細な日常の中で特別な色を持っていた。
手をつないで家に帰ったとき、地面の上で重なり合った2人の手の影は、仲の良い私たち2人の心の等身大だった。
1人で帰るのが寂しかった登下校の道も、2人で歩くための道になっているくらい、そこには温もりがあった。
後ろを振り向けば、そこに彼女がいる。
前に向かって歩けば、2人の2つの足音が、広い世界の真ん中に落ちる。
指を指す方角に、私たちの住む世界が広がっていると、彼女は言った。まさしくその通りなんだ。
楓の手も、足音も、日常の喧騒を容赦なく切り裂いて、立ち止まらない。視界の隅に落ちるそのシルエットを、手を伸ばして掴んでいたいと願っていた。
いつも、どんな時も。
また一緒に歩きたいよ。そう思うくらい、彼女に対して真剣だった。
真剣だったから、強情な私の心は、彼女のしたことを許せなかった。
他の子と遊んでいたこと、約束をすっぽかしたこと、そんな些細なことが、いつまでも心の中に引っ掛かっていたわけじゃない。
もっとずっと身近なこと。あんたのことが好きだってこと。許してあげたいくらい好きだってこと。
変わらない態度、変わらない足音、2人で育んだはずの生活の色や匂いや街の喧騒が、少しでも、色褪せてほしくなかったから、易々と、彼女に対して手を差し伸ばせなかったんだと思う。
同じ歩幅で、もう一度歩くことができるには、彼女のことを許すことが必要だったんじゃない。
彼女のしたこと、些細な喧嘩が、頭の中で真っ白になって忘れられるくらい、真っすぐあんたのことを見たかった。
それだけは、わかってほしい。
楓はある日、私のことを放課後呼び出した。
部活も終わって、夕暮れの背後にそびえるオレンジ一色の空の下で、教室の窓辺に座り、私のことを待っていた。
楓は喧嘩をしたあとも、笑って話しかけてくれてたよね?
そんな彼女の優しさに私は照れ臭くて、ありがとうと言えずにいた。意地っぱりの方は私だった。ごめんね、楓。
歩み寄る楓の視線がいつも隣にあったこと、知ってたよ。
何度も謝ろうとするあんたの姿を見て、なにを言えばよかったかな。
ごめんね、気にしてないよ、また一緒に仲良く話そう。
そのどんなささやかな言葉も、いつもすぐには出てこなかったけど、なにか話さなくちゃいけないとは、思ってたんだ。
教室で待つ彼女の隣に座って、ぎこちない作り笑いを浮かべる。
教室の外のグラウンドに差し込む、物寂しい放課後の雰囲気に包まれながら、いつもと同じように肩を並べ合って、世界を見てた。
なにも話さなくても、お互いのことはわかっているつもりだった。私は話さなくちゃいけないと思った。なにか……、なにか確かな言葉を言わなきゃ、一生このままだってこともあるんだと、その時は思った。
だけど先に話しかけたのは楓だった。私は、すぐにそれに反応した。
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