雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香

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この世界のどこかいるキミへ

第256話

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 それから毎日のように、彼女と一緒に過ごした。

 家は近いから、登下校も一緒で、時々夜遅くまで私の家に遊びに来るなんてこともあった。

 最初のうちは、楓があんまり強引なもんだから戸惑う部分もあったけど、1人でいるより2人でいる方がよかったし、たくさんの会話をすればするほど、お互いのことを知れて、夏を迎える頃には、彼女のことをきちんと名前で呼べていた。

 最初は「かえでちゃん」だったんだけどね。

 楓って呼べるようになった日から、もう彼女が身近にいることに慣れていた。


 ずっと無機質に感じていた新しい街の景色の中で、徐々に温かみが増していく。

 その日常の背景には、きっと彼女がいた。

 彼女は日に日にカラフルな色彩を帯びていって、瞳の中に賑やかに映った。

 最初から、私たちは気が合う運命だったのかもしれない。私の方が、最初のうちは気難しかったから、彼女の半ば強引なアプローチが、功を奏したのかもしれないね。

 どっちかが駆け寄れば、すぐにでもお互いに惹かれ合うものがあったんだ。

 そう思えるほど、いつの間にか彼女を目で追っている。今日なにがあったのか、家の食卓で家族の皆に話す内容は、絶対楓のことだった。

 学校で、街の交差点で、海の近くで、

 その1つ1つの場所や時間の中に、同じ歩幅で歩いている1人の女の子がいた。

 どこか好きなのかと聞かれれば、すぐに答えることができない。

 だけどそれこそが1つの答だったんだ。

 理由なんてなくても、彼女が傍にいて安心することができた。話しかけてくれたあの日から。


 楓と友達になれてよかったって、今さらながら思う時があるよ。

 楓じゃなきゃだめだとか、そういうんじゃない。

 ただ自分がどこにいても、しっかり前を向くことができたのは、彼女が私の目の前にいてくれたから。

 親と喧嘩したとき、先生に怒られたとき、なにかを落として無くしたとき、すぐにでも駆け寄って、傍にいてくれた。まるでヒーローみたいなあんたが、気前のいいテンションで大きなカバンを背に負って、気品もなにもない歩き方で登下校の道をズカズカ歩く。一緒に歩いていこうと言う。

 私は、楓に甘えていただけなのかもしれない。甘えたいだけの気持ちを隠して、楓の後ろを歩く。信号を渡る。交差点の十字路を横切って、道路の標識に記された方角をまっすぐ進んでいったら、海が見えた。

 澄み切った空の匂い。


 あの時、私たち2人は街の景色の上を土足で歩いて、散歩した。太陽の光を浴びて、目の前を走る幼馴染の女の子が、どこかたくましい男みたいでさ。

 私が彼女の隣に座ることができるのは、2人の間に難しいことなんて1つもなかったから。

 私たちが友達になれたのは、家が近いからとか、親同士が仲が良いからとか、同じ学年だからとか、そういう身近な縁が互いを引き合わせて、1つの生活の中に、共有できる時間があったからなのかもしれない。特別な事情なんてなにもなかったかもしれない。

 だけど思うんだ。どこからともなく彼女の街にきた私が、誰かと話すこともなく、1人登下校の道を歩く。その臆病な背中が、次第に弱々しくなっていく頃、彼女は私に近寄って、手を差し伸ばした。一緒に家に帰ろうと言ってくれた。それがすべてなんじゃないのかなって。

 やましいことなんてない。省みるものも、薄汚れた感情も。ただ屈託のない優しさを明け渡すように、1人の女の子がそこにいた。だからあの時、彼女と一緒に帰り道を走った時、その風に乗せられて、少しだけ笑顔になることができたんだ。

 そう思うのが、今となっては昨日のことのように思い出せる。
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