雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香

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第237話

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 「高校はどこ?」

 「灘《なだ》高」


 それを聞いて驚いた。

 灘高と言えば、全国でも有名な進学校じゃないか。

 キーちゃんならまだしも、…あんたが?


 …見た目がオタクなだけあって、勉強ができるんだね。


 剣道は?って聞いたんだ。

 亮平と言えば、真っ先に思い浮かぶのが袴姿だ。

 家の中をチラッと見たけど、竹刀はなかったし、胴着もなかった。

 いつもは、目につくところにあったのに。


 「…剣道?そんなんやってない」

 「…そうなんや」


 中学では部活に入ってなかった。

 帰宅部。

 見た目通り、インドアな学校生活を送っていた。


 「本当は、野球を続けたかったけど…」

 「野球?」

 「千冬と約束してたんや。一緒に甲子園に行こうって」


 私も聞いたことがある。

 『甲子園に行って、プロのスカウトに名前を売って、それでプロの道に進みたい』

 小6の頃だ。

 キーちゃんの言葉には説得力があった。

 豪快なストレートに、常人離れした練習量。

 夢を叶えたいという一心で、ボールを追いかけてた。


 「昨日、言ってたよな?」

 「なにが?」

 「千冬のこと。160キロを投げたいって」

 「…ああ」

 「その話、どこで聞いたん?」


 彼は、私の「話」の大半を信じてなかったが、キーちゃんと友達だという「言葉」だけは、妙に信じていた。

 私は私で、色々聞きたかった。

 2人がどんな関係だったか。

 「話」として聞く以上に、2人がどんな時間を過ごしてきたかを。



 畦道を抜けてたどり着いたキーちゃんの家は、この前来た時とはまるで違う姿に変わっていた。

 ボーボーに生えた草。

 家の前の白樺の門は嘘のように朽ち、蜘蛛の巣が張り巡らされている。

 自立式の可愛い郵便ポストにははみ出るほどのチラシやらハガキやらが口いっぱいに詰め込まれ、入りきらなかったものが地面に落ちて散乱していた。

 その”様子“は、私の家が見つからなかった時以上に、“異常“な気配を連れてきた。

 もう何年もこの家には誰も入っていないかのようなもの寂しさ。

 目に見えるほどの「時間の経過」が、石に生えた苔の足取りのように遅々とした”距離“を運んできていることが、私の知っている「現実」とその世界を、遠い過去のものとしてあざ笑うかのようだった。


 人気はなく、庭先にあるピッチング練習用のネットは、色褪せて使い物にならなくなっている。

 出しっぱなしのバーベキューセット。

 荒らされた畑。

 この前私が来た時は、トマトとかきゅうりとか、使い切れないくらいにたくさん実っていた。

 手入れの行き届いていた周辺の景色はどこかへ行き、覆われた雑草の中で「寂しさ」だけを残していた。

 声にもならない声、——そんな、言いようもない寂しさを。


 「ほら、おらんやろ?」


 確かに誰もいない。

 いたという形跡もない。

 「空き家」。

 そんな雰囲気だ。


 「中に入れんかな?」


 ザクザクと庭の中の砂利道を歩き、草を手で避ける。

 地面は足場が見つからないほど、草だらけだった。


 「中はさすがにダメやと思うけど…」

 「なんで?」

 「…なんでって、不法侵入にならん?」

 「でも手がかりとかあるかもしれんやん」

 「警察が散々調べてくれてるし、もうとっくに中も見とると思うけど」

 「兄貴は?」

 「兄貴?千冬の?…今は県外って聞いた」

 「県外??」

 「確か東京の大学に行ってるって」

 「…ふーん」


 聞けば聞くほど、知らない世界だ。

 亮平の忠告を無視して色々調べ回った。

 でも、ドアは開かないし、窓からも入れそうになかった。

 仕方なくUターンし、大学に行くことにした。

 おじさんがいるかどうかは亮平も知らない。

 どうせ近くだし、行った方が早いと思って大学には電話をかけなかった。

 いなければいないで、次の手を考えればいいと思い。
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