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空と海と、トンネルの向こう
第191話
しおりを挟む仕切りがない、開放的な間取り。
玄関口と同じく、木で敷き詰められた空間は、天井が高く、窓がないにもかかわらず少しも圧迫感がない。
吹き抜けと相性の良い、木×アイアンのスケルトン階段。
力強い大断面の柱と梁。
ハンドメイドの温かみが伝わる漆喰壁。
フロア全体を包み込むナチュラルな“木木感”。
そこは、大空間だった。
広さ的には、教室ぐらいは余裕である。
その上吹き抜けだから、屋外にいるような開放感だ。
何度も言うけど、地下にいるとは思えないほど、暖かく、明るかった。
隅々まで行き届いた木の壁や床、天井は、木のぬくもりを五感で感じることができるほど、洗練されたデザインが施されていた。
天井の端に至るまで、自然な素材で組み上げられた設計。
どうやって作ったんだろうって思ってしまった。
壁や床、天井は、表面上は木だけど、下地は全部コンクリートだって、キーちゃんが教えてくれた。
「ここにはたまに来るんや」
「最近も来たの?」
「おう。言うても、月に1、2回程度やなぁ。勉強部屋やねん」
「「部屋」って言うか、家やん」
「まあ、そうやな。ちなみにこういうフロアはあと4箇所くらいある」
「えぇ!?」
「元々親父が使ってたとこや。仕事が終わったらここに来て、寝泊まりして、研究室に行っての繰り返し」
「…なんか、すごいな」
「完全に趣味みたいなもんやろ。まあ、この地下シェルターを作ったんは、一応理由があったみたいやけどな」
「どんな?」
「アメリカが主導になって開発してる“地下都市計画”ってのが、親父の研究とも関係してるらしい」
「地下都市計画!?」
「そ。今から行く「場所」は、その計画のプレビューページみたいなもんや」
「は!?」
言ってる意味がわからなかった。
だってここが「秘密基地」なら、もう行く場所はないでしょ?
キーちゃんはリビングを越え、ある「部屋」に私を連れていった。
私の身長よりも大きな、円盤状の扉がある部屋の中に。
「この扉の向こうにトンネルがある。そのトンネルを伝っていくと、「目的地」に着く」
扉に取り付けられたバルブを回し、扉は開いた。
真っ暗な空洞が、そこにはあった。
「今から電気つけるわ」
そう言うと、その空洞に光が灯された。
先が見えない、直線上の通路。
巨大な穴。
それが、目の前に広がった。
「…どこに繋がっとん?」
「神戸港新港東ふ頭とポートアイランドとを結ぶ道路トンネル。知っとるやろ?」
「…あ、うん」
「あそこと繋がっとる」
「ええ!?」
その道路トンネルは、神戸大橋の横に設置されている地下トンネルだ。
神戸港港島トンネルって言う。
でも、そこまでかなりの距離があるはずなんだけど…
「言うても1.5キロくらいやで?」
「1.5キロも!やろ??」
「ハハッ。そうやな。さすがにトンネルまで歩くわけやないで。この通路はトンネルと繋げるためのものやない。トンネル側から掘削作業を進めて、繋がった「道」や。この通路も含めて、こっから先の空間はいわゆる“建設中の工事現場”って感じの場所やな」
「工事現場??」
「親父は莫大な金を注ぎ込んで、ポートランドの地下に巨大な“地下施設”を建設しようとしとった。今はもう中断してるが、この通路から、トンネル状に掘り進めていった掘削作業中の場所に行ける。まあ、別にこっちから来んでも行けるんやけど、わざわざここを通ったんは、ある「倉庫」に行きたくてな」
「目的地って、そこのこと?」
「そ。親父の研究資料が大量に保管されてる倉庫や。親父は、意外と几帳面な性格なんや。核戦争が起きた後も、自分の資料だけは大事に保管しておきたいって」
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