雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香

文字の大きさ
上 下
152 / 698
【第3章】青い土地

第151話

しおりを挟む

 「時間」が0から1に触れる時、0コンマ1秒の最初の刹那に、——現在が近づく。

 その加速度的な速度の先に、“未来を思い出せる”。


 現実か、夢か。


 その答えが目の前にあるかどうかはわからない…


 じっと待っていた。


 その時、——信号が青になるまでの、時間を。




 狭い路地。

 回る時計の針。

 

 
 ブロロロロロロロロロ……




 その「音」は、予告もなくやって来た。


 朝の静かな通りを震わすように響いた排気音。


 近づいてくる、——巨大な物体。




 ゴォォォォォォォォォォォ…




 横断歩道の前に立っていた。


 轟音を立てながらものすごいスピードで回転する車輪。


 アスファルトが摩擦で焦げるように焼けた臭いを引き連れてくる。


 止まる気配がない「それ」は、時間と時間の隙間を縫って、限界まで引き伸ばされた「空間」を切り裂くように、近づいてきた。


 凝視する視界。


 硬直する体。


 永遠にも思えるような「一瞬」は、交差点の真ん中を覆うように交錯した。


 風圧で髪が浮き上がる。


 その瞬間に、信号は青に切り替わった。





 目の前に通り過ぎたのは、一台のトラックだった。


 埃が巻き上げられ、視界の先に交錯した被写体が、路地の向こう側へと消えていった。



 「…嘘」


 そう思ったのは、本当に「それ」が、目の前にやって来るとは思わなかったからだ。

 半信半疑だった。

 心臓がドキドキしてる。

 
 本当に唐突だった。

 あの朝と同じように信号の前まで来て、「未来の現在」が近づくのを感じた。

 それ自体が奇妙だけれど、…なんていうんだろう…、急いで家に帰ろうと思っていたあの時のように、直前まで、交差点を渡れると思っていた。

 それほど、路地は静かだった。

 青になるのを待たなくても、進んでいけると感じるように。



 トラックは細い路地だというのにものすごいスピードだった。

 ブレーキなんてかけずに、減速する気配すらなかった。

 カーブミラーがないせいで、建物の影に隠れてよく見えないから、白線のギリギリまで近づかないと、左右を見渡せない。

 だから近づいたんだ。

 そうしたら、「音」が聞こえてきた。

 あの時に感じなかった、トラックの「気配」が。
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...