雨上がりに僕らは駆けていく Part1

18.44m

第１３８話

　「…ゴメン、楓」


　パソコンに陳列したその文章に目をやっていると、突然、キーちゃんがそう言った。

　振り返ると、私の袖を掴む震える手が、涙を浮かべるキーちゃんと共にあった。


　「どうしたん！？」

　「…イツカ、…マタ」


　聞こえてきた言葉と共に、目の中の光が消えていくのを感じた。

　——その最中さなかに、キーちゃんは私に言ったんだ。

　「18.44mの先で、待っている」、と。




　ピーピーピーピーピーピーピー…




　袖を握っていた彼女の手が、力なくダランと崩れ落ちた。

　目を閉じ、首から上が倒れるように傾く。

　その瞬間に警報のような音が鳴った。

　「キーちゃん！！」と叫んだ。

　遠ざかる何かが、目の前にあると思ったからだ。



　ピーピーピーピーピーピーピー



　「キーちゃん…！キーちゃん！！」


　「どうしました！？」


　音を聞きつけた看護婦さんが、慌てて病室に入ってきた。

　叫ぶように何かを言っている。

　そのうちに何人もの人たちが入ってきた。


　「…心肺が停止してる。蘇生装置を！」


　看護婦さんから無理矢理引き剥がされ、キーちゃんはベットに運ばれた。

　慌ただしい雑音。

　意識が真っ白になっていく。


　手を伸ばした。

　「キーちゃん！」って叫んだ


　でも、反応がない。

　無理矢理前に進んでいこうとした。

　何人かの手が、私を止めようとしている。

　誰かが心臓マッサージをしていた。

　ベットが激しく揺れていた。


　どいてよ！


　…キーちゃんが、…キーちゃんがッ…！



　全て夢だと思った。

　目の前の出来事が「何」かを、理解することはできなかった。





　だから、願ったんだ。







　ただひたすらに、夢なら覚めてほしいと。