雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香

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未来の記憶

第112話

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 家のリビングで入れられたコーヒー。

 ブラック飲めないんだけど…、と男に言うと、砂糖とミルクを用意してくれた。

 私たちはテーブルに向かい合い、話をした。


 「…せやから、私は過去から来てる!」


 男に必死に説明した。

 「説明」と呼ぶにはあまりにも雑な内容だったけど。


 「…はぁ」


 なにを考えているのか、彼は釈然としない様子だった。

 私は、自分が「未来に来ている」と言うことの事実を、自分自身の頭の中に“確信”しているわけじゃなかった。


 …だけど、思ったんだ。

 2022年という日付のカレンダーに、見たこともないスマホの形状。

 開かないパスコードに、洗面台の鏡に写る、“大人びた”私。

 目の前に広がる景色の中に、自分の知らない「世界」がある。


 嘘のように思えた。

 …思えたけど、これが、——この経験が、初めてじゃなかった。

 2013年のクリスマスにいた自分のように、変わり果てた”何か“が目に前にある。


 …だから、だからきっと今私は、また、別の世界に来ているのだと思った。

 目の前の「男」が亮平だと言うなら、それ以外に説明がつくものがない。

 大人びた私の「見た目」を説明できるものなんて、他にないでしょ?

 「2022年」なんて、知らなすぎるにも程があるけど…


 「まじめに聞いてや…!」

 「まじめって言うか、いくらお前が言うことでもなぁ…」

 「あんたはどうなん!?」

 「…え?」

 「あんたは、…未来から来た亮平?」


 自分が話そうとしていること、確かめようとしていることは、整合性のかけらもなかった。

 ただ、自分が知っていること、今の自分が”追いかけなければいけない”ことを追いかけた。

 なにが現実でなにが現実じゃないかもわからない今、とにかく記憶を辿ったんだ。

 自分にとっての「今」を探るために。


 「未来から来たって、笑える」

 「あんた自分で言うとったやん!50年前から来たって」

 「50年前…?っていうと、2072年ってこと?」

 「…あ、いや、あんたと再会したのは確か、…2013年やから、…その」

 「2013年??」


 男は不思議そうに見てくる。

 無理もない。

 私の「言葉」はぶっ飛んでる。

 自分でなにを言っているかもわからなくなるほど。

 でも、はっきりと覚えていることがある。

 さっきまで私たちは展望台にいた。

 4人で。

 …いや、正確には、5人…か。


 「展望台!?」

 「そう。東部展望台。隕石見ようって言うたやん!」

 「…俺が?」
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