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次元の狭間
第110話
しおりを挟む写真を見た。
できるだけ近づいて、その中にいる「人間」を凝視する。
ピントが合った視界の先で、ウエディングドレス姿の「私」。
「…こんなの…あり得ない…」
「…なにが?」
「…あんた、誰よ…」
「俺は…」
目の前にいる男は、私の知っている口調でこう言った。
「日本一の剣豪になる男だ」って、冗談めいたニュアンスで。
子供の頃から野心家だった亮平が、よく言っていた口癖。
いい歳こいて何言ってんの?って言ってしまいそうになるほど、聞き慣れたリズム。
私の耳は、その「音」を“日常”の先に捉えていた。
純粋に透き通った、水の流れのように滑らかに。
聞こえてくるはずのない音の向こうで、交錯する視線。
目の前にいる男は、私が知っている男に似ている。
子供の頃からずっと一緒にいた、幼馴染に。
「亮平…?」
「なんや?」
投げかけた言葉に、返ってくる言葉。
私が呼んだ名前に、男は呼応した。
まるで自分が呼ばれているみたいに。
「…嘘や」
「ん?」
「あんたが亮平な訳ないやろ」
「はあ?ほな、俺は誰やねん」
「そんなん知らんわ…。そもそもここはどこや?」
「どこって、俺らの家やろ…?」
「「俺らの家」??」
「…おいおい、ほんまにどうしたんや?なんか様子おかしいで…?」
混乱する。
動転する思考の中で、記憶が蘇ってきた。
…タイムリープ
…50年前
…交差点の事故
一緒に隕石を見ようって…
…そうだ
みんなと展望台まで歩いていた。
それからその先で、綺麗な神戸の夜景を見て、——隕石を見た。
空から降ってくる、巨大な光を。
そしてその先で——
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