雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香

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星の降る夜

第92話

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 「やから、付き合う気ないって」

 「はあ!?意味わかんない。ちょっと綺音、あんたからもなんか言ってよ」

 「モゴモゴ(なんか言った?)」


 綺音の食事の邪魔したらダメだよ。

 っていうかスゴい。

 もう完食しつつある…。


 「楓が翔君から告白されたって!大事件やでこれは」


 そんなに事件じゃない。

 1回目の出来事なら確かに大事件だったけど、状況が違うんだよ。

 綺音は「あーそうなん」みたいな冷静なノリでフォークを止めようとしない。

 がっつきすぎだろ。

 今どこまで話が進んでるか知ってる?


 「付き合わんのん?」


 綺音はハムスターみたいに口の中にパンケーキを詰め込んだまま、聞いてきた。

 告白されたことに対してそこまで驚いてないみたいだし、話を進めるなら綺音と会話したほうが良いかもしれない。


 「付き合わん言うてるのに、アキラがしつこいんや」

 「いや、意味わからんくない?スマホのフォルダーに写真保存してるようなやつがよ?急に冷めるとか…。それはそれで怖いわ」


 ゲッ。

 そういえばそうだ。

 グラウンドで練習してる後ろ姿を、教室の窓から撮った写真。

 アキラが至近距離で撮ればええやんと言ってたが、至近距離とか鼻血が出るから後ろ向きでいいと、恐る恐る校舎の3階から盗撮させて頂いた写真が1枚。

 きっとまだフォルダー内に残ってる。


 「翔君ねぇ、多分楓のことが好きなんだろうと思うてたよ」


 まるでそれがさも当然のことのように、綺音は言った。

 ほんとかよ…。

 綺音は凄まじく洞察力が優れてるから、そう言われるとドキッとする。

 でも、それならそうと早く教えてくれない?

 私が好きだった頃に。


 「とにかく、翔君のことはもういいから」


 2人は興味津々にこっちを見ているが、済んだ話なんだ。

 私にとってはね。

 今はそれ以上のことは話せないし、それに会話の本題は翔君じゃない。

 亮平の「未来人」の話が、主題のテーマだろう。


 「…あぁ、そっちね。でも告白されたって言うのは、事前に知っていたっていう可能性も0やなくない?」


 綺音は「なんのこと」と言った表情で目が点になっている。

 やっぱ全然聞いてないじゃないか。

 私とアキラは、さっきの話を一から説明した。


 「え!何その話」

 「せやから言うてるやん。亮平が未来から来たって」


 側から見たら、何言ってんだこの中学生達って思われるだろうな。

 「未来」って言葉は、現代社会でもどこかスピリチュアルというか、科学的に証明されていないことが多い。

 漠然とその言葉を使っているイメージがある。

 明日何が起こるかは、誰にだってわからないから。


 「えー、なにその雑な嘘」


 さすが綺音。

 至極まともな解答。

 リクガメを飼うのに下調べをし、ビタミン、ミネラル、カルシウムなどの栄養摂取目安を、完全に網羅していただけはある。

 オタクかつロマンスに溢れる魔法少女気質な一面もあるが、根は合理主義者だ。

 理屈に基づいて行動するタイプ。

 私たちとは違って幽霊なんかは絶対に信じない。


 「でも、地震を予測してたで?」

 「地震?」

 「そ!58分に関東で地震がある言うて、震源地まで言い当ててた!」

 「スゴ…。でも「未来」から来たって?そんなアホな…」


 うんうん。

 私もそう思うよ。

 “そんなアホな” だよねほんとに。

 こんな話するべきじゃなかったんだ。

 少なくとも「今」は。


 「連絡があるって言ってたけど、いつくるんやろ」

 「…うーん」

 「「亮平君が未来から来た」って、何かのネタ?」

 「いや、ネタやなくて、がち」

 「はあ?」


 綺音を説得するには骨が折れそうだな、こりゃ。

 アキラはアキラで一瞬驚いたとはいえ、8割型信用してない。

 大体亮平の目的がわからない。

 手伝って欲しいことがあるんだったら、そのまま言えばいいのに。

 わざわざ変な情報を拡散しなくても…


 「で、あんたらどうするん?」


 2人に聞いた。亮平から連絡があったらどうするのか。

 手伝うのか手伝わないのか。


 「私は別に、構わないけど」


 綺音、あんたは?


 「え?私?ああ別に問題ないよ」


 合理的な性格のくせに能天気なところが大好きだよ、綺音。

 一緒にいて癒される。

 その強烈な食いっぷりも、スマホの待ち受けにしたいくらいだ。


 「未来」の話は、なんとも微妙な感じで終わったが、ひとまず亮平の思惑通りに事は進んだ。

 亮平からはそのあと連絡が入った。

 明後日の27日の夜に、集合!って。

 …なんで明後日なんだ、と内心思ったが、そんなことは一旦置いといて、私たちは当初の予定通り、元町を散策して歩いた。

 途中アキラがカラオケしたいって言うから、ジャンカラでフライドポテトをつまみながら熱唱し、そのあと家の帰路についた。

 夜7時を回ったところだった。
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