雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香

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星の降る夜

第91話

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 「いつから?」

 「…えーっと、昨日」

 「昨日!?」


 なんで言ってくれなかったの的な顔で見られる。

 …ああ、なんて説明したらいいのやら。

 亮平!お前がちゃんと説明しろ!!


 「楓が言っとることは事実や。昨日家に来たんも、そのことでな。とにかく今は、俺の話を信じてくれんか?」


 そんな急に信じろとか言われても無理だよ。

 普通の人なら、理解できない状況に首を傾げるだけだ。

 今のアキラみたいにね。


 「信じろって言われてもなぁ」


 ほら、言わんこっちゃない。

 私みたいに、「過去に戻る」とか訳の分からない出来事に遭遇してたら、少しは信じていいかもという気にはなるかもしれない。

 …が、なんの伏線もなしに「俺は未来人です(キメ顔)」とか言われたら、何コイツキモッ…、で終わってしまうだろ。


 「もし、少しでも信じてくれるんやったら、明後日の夜、来て欲しいとこがあるんやが」

 「どこよ?」


 しかも夜て。

 また母さんに怒られるだろ。

 ウチは結構厳しいんだよ。

 とくに帰るのが遅くなったりしたら。


 「来て欲しい場所は、また連絡する」


 別に今言えば良くね?

 と、亮平が立ち上がって「ほなまたなぁ」と手を振って出て行った…。




 えええええええ


 この状況で帰るとかあり得ないだろ…。

 アキラは俄然ぼーっとして、その一部始終を眺めている。

 亮平の説明不足のせいで頭の回転がおぼつかない様子だ。

 大丈夫?

 そう聞くと、「ねえ、いまのどういうこと!?」と私に聞いてきた。



 はぁ…。

 後で覚えてろよあいつ…。



 「えっと、一旦話を整理しようか」

 「整理って…?」

 「あの、その、亮平が未来から来たのは多分ほんとやから」


 冷静に振り返れば、この発言はとんでもなく常軌を逸してる。

 「未来から来たのはほんとだから」なんていうセリフが、2013年に使っていい言葉じゃないのは誰にだって分かる。

 でも冷静になれないのは私の方で、なんて言えばいいのやら頭が真っ白になってしまっていた。

 亮平からはメールが届く。


 『めんどくさいから、お前が事故に遭ったっていう話はするな』


 こいつ。

 なにが「めんどくさい」からだ。

 今の私の状況を考えろよ。

 「未来」から来ましたとか言って困惑させるだけ困惑させて、後片付けもせずにどっか行きやがって。

 追いかけてやろうとも思ったが、足が早すぎて多分追いつけない。



 「未来から来たって…?」

 「あー…、うん、私も詳しくはわかんないけど」

 「何年後の未来から来たの?」


 えええ。

 そこ!?

 今そこ疑問に感じる??

 できるならアキラの頭の中に入って疑問を払拭してあげたい。

 けど、何から始めればいいだろう…


 「50年後とかって言ってたで」

 「50年後!?」


 まあ、そうなるよね。

 とにかく情報を明確にしてあげないと、ただたんに「未来から来た」ってだけ伝えても埒があかない。


 「私も最初は疑問に思ったけど、さっきみたいに予言したって言うか、信じられることがあったというか…」

 「え、例えば?」


 あーやばい。

 「私も未来から来たから」、ってものすごく言いたい。

 でも違う説明をちゃんとしないと。


 「例えば…、そうそう、翔君から告白された」

 「は!?まじ?」

 「ほんまほんま!さっきみたいに亮平から電話ある言われて、スマホ置いてたら電話かかってきた」


 あー…、まあこれぐらいの嘘なら、問題ないだろう。

 「未来を予測した」っていう点は合ってるし、話の筋的にも合理性がある。


 「それで、なんて答えたん!?」


 えーっと、ん?

 あ、いや…、電話には出てない。

 でも、電話に出てもいないのに「告白された」なんてどう考えてもおかしいから、「メールで告白された」と、ひとまず嘘をついた。

 「返事はまだしてない」、という言葉も込みで。


 「なんで?」とアキラは聞いてきたが、なんて説明すればいいかな…。


 「あんま好きやないっていうか…」

 「いや、あんた好きや言うてたやん?カッコええカッコええ言うて」

 「昔はな。でも今はちゃう」

 「先週も好きやって言うてたやん…」


 えぇ。

 そんな軽々しく好き好き言ってたのか、中3の私。

 自分で自分の首を絞めるとは言うが、こんな時間差で首を絞められるとは。


 「人の心は変わるもんや」

 「いや、そうやとしても早すぎやろ」

 「まあまあ、とりあえずそんな感じや。私もまだ信じてないけどな」

 「てか、電話しぃや」

 「誰に?」

 「そりゃ翔によ」


 アキラと翔君は仲が良い。

 というかアキラは男子にも女子にも人気があるから、学校のそれぞれのグループに顔馴染みがある。

 翔君はサッカー部のキャプテンで、女子には大人気だ。

 アキラはサッカー部のメンバーとよく話をしたり、サッカー部はサッカー部でバスケ部と交流があったから、翔君とアキラはほぼほぼ友達だった。

 てっきり、この2人は付き合うのかと思っていたくらいだ。

 翔君は正統派イケメンだし、アキラは学校一の美少女。

 西中以外の外の世界を知らない私からすれば、この2人は付き合って然るべき関係性を持っていた。

 でも肝心のアキラは、全く興味がないようだった。
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