73 / 698
第一次クロノプロジェクト
第72話
しおりを挟むだけど、キーちゃんがその研究の第一人者だって?
そもそも未来のことなんて想像もできない。
けど、まず第一に、亮平が過去に来たことも、今の話も全部含めて、キーちゃんがその“中心”にいるっていうことが、考えられない。
いや、別にキーちゃんのことをバカにしてるわけじゃない。
きっとキーちゃんなら、私の想像もできないことをやってのける。
そんな天才少女、スーパーヒーロー、私の稚拙なボキャブラじゃあ形容できないほどの才能の持ち主、それが「キーちゃん」。
だけど、いつもそばにいた彼女が、私の知らないところにいて、知らないことをしていて、あまつさえ「クロノプロジェクト」とかなんとか言うイベントの主催をしているだなんて、情報量が多すぎる。
「イベントやなくて、“科学”や」
なんでもいいよ、そんなものは。
人類が月に行こうが、新しい技術が発見されようが、ただの日常を過ごしてる私にとってはどうでもいいことだ。
女子高生には女子高生の日常がある。
いや、…今は過去に戻ったせいで中3だが、なんにしても私には私の日常がある。
あぁ、あの頃が懐かしい。
夜遅くにキーちゃんの家に行き、電気を消した部屋で2人毛布に包まりながら、湿ったポップコーンを食べる。
同じ目線の先で一台の液晶テレビ。
SF好きなキーちゃんがよく見てた、「バック トゥーザ・フューチャー」。
古くさい1980年代のアメリカの街並みに、街中を歩くフレッピースタイルの若者。
DVDの画質の悪い映像の前で、くだらない話ばかりしてた。
将来楓はなにがしたいの、とか、聞かれたっけ?
その度に私はこう答えた。
キーちゃんの隣にいれたらいいよ、って。
キーちゃんは笑ってた。
私はあんたのお母さんじゃないって。
そりゃそうだ。
でも、私はいつまでも同じ日が続けばいいと思ってた。
なんの理由もなく笑える時間があって、好きな時に会える。
それが「当たり前」だと思えることが、難しいことだとは思えなかった。
キーちゃんは私にとって、非日常的な天才少女でもあったけど、私の真隣にいる「日常」でもあった。
そんなキーちゃんが、「未来」で「なに」をしてるって?
「俺だけやったら、きっと信じてくれんやろ?お前と一緒やったら、説得できる気がする」
待て待て、勝手に話を進めるな。
なにを説得するんだ。
「千冬に、今回のことを伝えるんや」
伝えてどうする。
研究を中止するとか?
「いや、研究自体を中止することはできんやろう。仮に千冬に説得して、クロノクロスの研究をやめてもらっても、その「技術」自体は、世界に存在することが証明されてる。いつか誰かが、同じ「科学技術」を開発するはずや」
じゃあ、私に協力できることなんてないじゃないか。
結局、そのクロノなんとかは発明されるんでしょ?
だったら私たちにできることなんてない。
「“だからこそ“や。千冬に開発してもらって、研究そのものを管理してもらいたい。過去に”情報を送信する”という技術を発見しても、それを実践的に使用しないという形を取れば、“世界は修正されずに済む”」
その話に、どうも合点は行かない。
私の中で解釈していたのは、亮平が“事故に遭わなかった”という新しい結果での世界は、真実を隠して偽の内容を後から提出することのように、“ウソをついている“状態になっている。
そのことを正すために、協力してほしいと言ってきた。
だけどさっき言ったじゃないか。
元の世界に”完全な状態で戻る”ことは、不可能だって。
「方法なら、ある。ひとつだけ」
「はあ?」
「この頭ん中にある2つの世界のデータを解析して、“初期化”するんや。スマートフォンの出荷状態前に戻すようにな」
いやいやいや、ご丁寧に数学や物理やらの話を踏まえて、「元には戻れない原理」を説明してくれたじゃないか?
コーヒーがひとりでに熱くならないことと、過去に戻れないと言うことは「同じ原理」だって。
「そうなんやけど、2つの世界のデータを持っとる今の俺にならできる。厳密には、過去に「戻る」んやなくて、“データを削除”するんや。過去に戻るって言うのは、正確にはエントロピーの減少を可能にすることや。しかし、データを削除するって言うのは、厳密には、増えた容量を削除して、その区間のエントロピーの増大率そのものを切り取って削除する。それによって、今の俺も、楓も、全部なかったことになる。元に戻るということの「時間の可逆性」の話とは、また別や」
可逆だがなんだかは知らん。
でも“削除”って。
要するには元の世界に戻るってことでしょ?
っていうことは結局、あんたが事故に遭うってことじゃないか。
「ええか、楓。そういう問題ちゃうねん」
「どういう問題や」
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる