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整理できない時間
第15話
しおりを挟むそのうちに母さんが寝室から降りてきた。
どうしたのこんなに朝早くから、と母さんは言うんだけど、どうして梨紗が家にいるの?
学校は?
私より先に家を出たはずなのに。
「学校ってあんた、ひどいねぇ…。冬休みやのに」
「そや!ひどいわお姉ちゃん。私を家から追い出そうとせんでよ」
はいはいそうですかすみません。
べつに追い出そうってことはないけど、なんだ今日は冬休みか。
…いやいや、納得してる場合じゃないんだけどね。
全然実感が湧かないし、そんなふざけた話を信じられるわけがない。
そうだ、カレンダーの下の棚に、スケジュール帳があったでしょ。
今年の夏はステップアップの夏にするんだって、梨紗が提案してきた。
それで一緒に書いたんだ。
『今年の夏にやるべきこと』と題して。
映画を見る本を読む買い物に行く服を買いに行く。
私たちなりに立てた目標だった。
ろくに遊べる機会なんてなかったからね、去年の夏は。
棚の中を探してみるんだけど、見つからない。
今年の夏は、いろんなことをやるって決めてた。
書いたことは間違いない。
メモとしてたくさん書いてまとめていたんだ。
でも、見つからない。
「楓、今日は寒いから風邪引かんようにね。梨紗、あんたもよ」
うん、うん、そうだねとお母さんに返事をして引き出しを漁る。
全然言葉は聞こえてこない。
梨紗はまじまじと私の方を見ているようだけど、知らんぷりして目の前の出来事に集中した。
「それで今日のパーティーのことなんやけど」
はい……はい……
「ちょっと!ちゃんと聞いとる?」
え、ああ、クリスマスパーティーが今日あるんだって。
そりゃすごいや。
全然頭に入ってこないけど。梨紗、少し黙っててくれる?
「お姉ちゃんは何が食べたい?」
うーん、そうだね、じゃあ肉かな。
うんとでかいやつ。
お母さんにも相槌しながらごちそう談義に入ってる梨紗との会話をつづけて、私は私でひたすら棚の中を探った。
今年の夏。
高校生活1年目の2学期スタート。
クリスマスパーティーなんて冗談にもならない。
お母さんの顔、食卓に並ぶあたたかいパンとコーヒー。
当たり前のように映るその日常の風景たちが、まるで綺麗な幻みたいに見える。
なぜか遠い昔のことみたいに、目の前の景色が懐かしく思えた。
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