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692獣人の生活2

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******(獣人)

倉庫には、冬を越せるだけの食料が運ばれ
大工は簡易的と言うが、ジレット王国の時とは比べ物にならない立派な家も出来上がって来ている。
区画に分けられ綺麗に並んだ家を見ていると、村の開拓では無く、町作りではないかと思ってしまうほどだ。

ラグテルの町から薬剤師が来て、冒険者にポーションや解毒剤等の薬の販売が始まった。
俺達の中からも、数名が薬剤師見習いとして技術を教わりながら働いている。
薬剤師の仕事は大変らしいが、教えてくれる技術を懸命に身に付けようとしている。
俺達獣人が技術を教わるなんて、有り得ない事だった。
開拓が安定するまで警備を行っている獣人には必要な分を無料で支給され
それ以外の分が冒険者への販売に回されている。
販売には簡単な計算が出来るようになった俺達獣人が行い、俺達は今までとは考えられない程の忙しく充実した毎日を過ごしている。


全住民の家が出来上がるのは春まで掛かる予定で
未だ住む家が出来ていない俺達は、冬の間は大きな岩の洞窟の中にテントを張って過ごす事になっている。
岩に囲まれているだけで暖かく過ごす事が出来る。

洞窟の内部には光の魔道具を設置してくれているので、明かりは問題ない。
この岩の洞窟も一晩で出来上がり、村を囲む壁と同じ感じなので、ロックウォールという魔法で作ったのではないかと皆が言っている。
しかし、魔法の知識の有る仲間に言わせると、これだけの事を一晩で行うには優秀な魔道師が何十人も必要になるとらしい。
それだけの魔道師がこんな開拓地に居る訳も無く、導く者とその使いの剣君、斧ちゃんの奇跡と噂になっている。


今日、畑で初めての収穫が行われた。
3週間ほどで取れる野菜だが、開拓地での初めての収穫だ。
早速、サリナ姫、シュミト公爵へ捧げると

「簡単な催しですが、3日後に収穫祭を開きます。」

サリナ姫から発表があり、俺達は大騒ぎになった。
子供達は何の事か分からず、親に聞くが親はどう答えて良いのか分からない。
当然だ。収穫祭なんて、今まで行った事も無いのだから。

祭りの前日、俺達は明日の事が気になり寝付けずにいると
祭りを行う広場に3人の人影が有った。

「おい、侵入者じゃないのか。見張りを呼んで来た方が良くないか。」
「良く見ろ、ヨギ魔道師に剣君、斧ちゃんだぞ。」
「斧ちゃんはヨギ魔道師だったんじゃないのか。」
「そんなの俺に分かる訳無いだろう。」

俺達がテントの陰から3人を眺めていると、斧ちゃんが手を前に伸ばすと

「ロックウォール」

静かな夜の中、小声で唱えるのが聞えた。
すると地面が持ち上がり、何も無かった空き地に岩が盛り上がり、ステージが出来上がった。
周囲に岩で大きな円錐やテーブルを作っていった。
そしてヨギ魔道師が剣君と斧ちゃんに頭を下げると、剣君と斧ちゃんの体が光り、次の瞬間に消えていた。

「今のは何だったんだよ。」
「そんなの、俺に分かる訳無いだろう。」

ヨギ魔道師が小声で話していた俺達に気付き、近付いてきた。

「お前達は、今のを見ていたのか。」
「すみません。見てしまいました。」

人気が無いのを見越して、夜中に行動をしていたという事は、見てはいけなかったのだろうか。
俺達の所為で、祭りが取り止めになってしまったらどうすれば・・・

「いや、見られても問題はない。剣君と斧ちゃんが最後の手伝いで驚かそうとしているだけだからな。
 話をするなら、全員が驚いた後にするように。」
「分かりました。しかし、最後の手伝いとは。」
「あの2人は、ここまで皆を導くために使わされた。
 ここから先の開拓は、自分達の力だけで成し遂げる事になる。
 この収穫祭が、あの2人からの最後のプレゼントという事だ。見事に成功させるしかないぞ。」
「頑張ります。」

俺達がハッキリと返事をすると

「声が大きい。皆が起きてしまうだろうが。」
「すみません。」

ヨギ魔道師はそのままテントの方へと帰った。

「斧ちゃんがヨギ魔道師では無いなら、一体誰なんだ。」
「導く者の使いって事は、神様の使いそのものとか。」
「人間じゃないって事か。」
「お前達だって、光に包まれて消える所を見ただろ。」
「・・・」

今まで、高位の魔道師に助けられたと思っていたが、実は神様が直接助けてくれていたのか。
考えて見れば、たった2人であれだけの事を成し遂げるなんて人間業では無いだろう。
結局、俺達はなかなか寝る事が出来ず、朝皆の驚く声で目覚める事になった。
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