上 下
661 / 745

661巨大魔道具

しおりを挟む
敵は塔の方へは来る様子も無く、ヨハンさんも簡単な事くらいは自分で出来る様になってきている。
酷い怪我だったとはいえ、後遺症は残らないみたいだ。

俺達の場所からは外の状況は分からず、どちらにしろ毒が消えるまでは動きようが無い。

「この城の動力源が切れませんかね。
 せめて、もう少し魔法が使えれば、色々とやれる事が有るのですが。」

魔力を放出しても1割にも満たない。
全力を出せば、普通の魔道師位には成るかもしれないが、それはやっていられない。
ヤマトも姿を隠すのが限界で、通路の方で待機して貰っている。

「それは無理ですね。1ヶ月以上は、この状態を維持出来ると聞いています。」

「普段から、この状態では無いのですか。」

「非常時にだけ、王族が城の力を解放します。
 今なら、城を囲むシールドも普段の数倍の強度を持っているはずですよ。」

それだけの魔力を蓄えられるなんて、どんなシステムなんだ。
ドレーヌ夫人の話では駆動装置はこの塔の地下に在り、装置を動かせるのも、扉を開けられるのも国王だけらしい。

「待ってください。その駆動装置の有る部屋には何か有るのでは。」

「それ以上は分かりません。私は中に入った事が無いので。
 ただ、一度城の力を解放してしまうと、部屋への扉も魔力を動力源とするので開いたままに成っているはずです。」

もし、ナターシャ達の目的がその部屋の中に有るとすれば、
戦争を仕掛けようとしたり、サリナ姫の誘拐、貴族に反乱を起こさせた理由も納得できる。

『全てが部屋への扉を開かせるためじゃったら、既に目的は達成させているじゃろう。』

グリムも同じ事を考えたみたいだ。
いや、そうだとすると

「剣君、斧ちゃん、どうした。何か気になる事でも有るのか。」

シュミト公爵が聞いて来るが、先に気になった事を尋ねてみる。

「元貴族達の処刑の時、城の力は解放されなかったのですか。」
「あの騒ぎの時は、国王は死刑場に居た。力を解放させるのは無理だろう。
 今回は戦争が起きそうになった後での王子のパーティのために、事前に装置を起動させている。」

もし、そこまで計画的に動いていたとすると・・・
シュミト公爵にナターシャ達が駆動装置の部屋を狙ったのではないかという推測を話してみた。

「前回の襲撃には参戦していた3人が居ないとなると、その可能性も有るか。
 確かに、戦争という事態が起きなければ部屋の扉を開く事は無かっただろう。
 しかし、我々にあの毒を撒いた通路を通り抜ける方法は有るのか。」

シュミト公爵が言う通り俺達はあの通路を通り抜ける事は出来ない。
解毒剤は有っても、毒を浴び続けては無事ではいられない。
そして、魔法が使えるのならともかく、今の状態では他に方法が無いことを話す。

「なら、塔を出た後の事を検討しておいた方が良いだろう。
 ドレーヌ様、国王様に口添えをして2人に塔の内部を見せて頂くことは出来ないでしょうか。」

「あの部屋は、王族しか入る事を許されていません。
 出来る限りの事はしますが、王族の血を引いているだけの私では難しいかも知れません。」

いざという時、サリナ姫にも力を貸してもらう事も考えておいた方が良いかもしれないな。

「しかし、この城は遺跡なんですよね。
 未だに稼働しているなんて凄いです。
 古代のテクノロジーって、人知を超えていますよ。」

俺は手のひらに集めた魔力が消えていくのを繰り返していた。

「少し違うわね。この城が遺跡では無くて、遺跡の場所に城を建てています。
 遺跡だった場所は、私達の居る中央の柱と5隅の塔だけ。
 それを元に城が建てられています。」

「ドレーヌ夫人は遺跡に詳しいですね。」

「昔は、考古学者になるのが夢でしたから。
 と言っても、自由に外に出る事も出来ずに一番近い遺跡として城を色々と調べていた位ですが。」

昔を懐かしむように、目を閉じるドレーヌ夫人。

「サリナ姫のお母様がお存命だった時は、良く城に来てサリナ様に遺跡の話をしてあげたのよ。
 姫様は、それはもう目をキラキラさせてね。
 良く、遺跡の話をする様に強請られたのよ。」

その頃のサリナ姫なら可愛かっただろうな。

「6つの塔だけでも凄く大きな遺跡ですよね。
 城と一体化していた訳で無ければ、この遺跡は何の目的で建てられたのか。」

「それは面白い疑問ね。でも、残念ながら分からないわ。
 ただ、城が後から建てられたのならシールドを張る為では無いと思います。」

張られているシールドは、地面まで届いていない。
城が後から付け加えられたのであれば、確かに別の目的が有った方が合理的な考えだ。
現存している資料には、中央の塔と周囲に5本の塔が立っている状態から城を作った経緯だけが書かれているらしい。

「この部屋は塔の外側にあるけど、内側はどうなっているんだろうな。」

浩司の言う通り、この塔の中はどうなっているのだろうか。

「当時の国王、お父様にも聞いてみたけど、教えて貰えなかったわ。
 ただ、塔に登っても内側への入口は見つからなかったので、塔全体が大きな魔道具なのかも知れないわね」

強力な結界を張り続ける、巨大な魔道具か。
古代のテクノロジーは凄い。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お布団から始まる異世界転生 ~寝ればたちまちスキルアップ、しかも回復機能付き!?~

雨杜屋敷
ファンタジー
目覚めるとそこは異世界で、俺は道端でお布団にくるまっていた 思わぬ″状態″で、異世界転生してしまった俺こと倉井礼二。 だがしかし! そう、俺には″お布団″がある。 いや、お布団″しか″ねーじゃん! と思っていたら、とあるスキルと組み合わせる事で とんだチートアイテムになると気づき、 しかも一緒に寝た相手にもその効果が発生すると判明してしまい…。 スキル次第で何者にでもなれる世界で、 ファンタジー好きの”元おじさん”が、 ①個性的な住人たちと紡ぐ平穏(?)な日々 ②生活費の為に、お仕事を頑張る日々 ③お布団と睡眠スキルを駆使して経験値稼ぎの日々 ④たしなむ程度の冒険者としての日々 ⑤元おじさんの成長 等を綴っていきます。 そんな物語です。 (※カクヨムにて重複掲載中です)

はずれスキル『模倣』で廃村スローライフ!

さとう
ファンタジー
異世界にクラス丸ごと召喚され、一人一つずつスキルを与えられたけど……俺、有馬慧(ありまけい)のスキルは『模倣』でした。おかげで、クラスのカースト上位連中が持つ『勇者』や『聖女』や『賢者』をコピーしまくったが……自分たちが活躍できないとの理由でカースト上位連中にハメられ、なんと追放されてしまう。 しかも、追放先はとっくの昔に滅んだ廃村……しかもしかも、せっかくコピーしたスキルは初期化されてしまった。 とりあえず、廃村でしばらく暮らすことを決意したのだが、俺に前に『女神の遣い』とかいう猫が現れこう言った。 『女神様、あんたに頼みたいことあるんだって』 これは……異世界召喚の真実を知った俺、有馬慧が送る廃村スローライフ。そして、魔王討伐とかやってるクラスメイトたちがいかに小さいことで騒いでいるのかを知る物語。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

捨てられ従魔とゆる暮らし

KUZUME
ファンタジー
旧題:捨てられ従魔の保護施設! 冒険者として、運送業者として、日々の生活に職業として溶け込む従魔術師。 けれど、世間では様々な理由で飼育しきれなくなった従魔を身勝手に放置していく問題に悩まされていた。 そんな時、従魔術師達の間である噂が流れる。 クリノリン王国、南の田舎地方──の、ルルビ村の東の外れ。 一風変わった造りの家には、とある変わった従魔術師が酔狂にも捨てられた従魔を引き取って暮らしているという。 ─魔物を飼うなら最後まで責任持て! ─正しい知識と計画性! ─うちは、便利屋じゃなぁぁぁい! 今日もルルビ村の東の外れの家では、とある従魔術師の叫びと多種多様な魔物達の鳴き声がぎゃあぎゃあと元気良く響き渡る。

前世の記憶で異世界を発展させます!~のんびり開発で世界最強~

櫻木零
ファンタジー
20XX年。特にこれといった長所もない主人公『朝比奈陽翔』は二人の幼なじみと充実した毎日をおくっていた。しかしある日、朝起きてみるとそこは異世界だった!?異世界アリストタパスでは陽翔はグランと名付けられ、生活をおくっていた。陽翔として住んでいた日本より生活水準が低く、人々は充実した生活をおくっていたが元の日本の暮らしを知っている陽翔は耐えられなかった。「生活水準が低いなら前世の知識で発展させよう!」グランは異世界にはなかったものをチートともいえる能力をつかい世に送り出していく。そんなこの物語はまあまあ地頭のいい少年グランの異世界建国?冒険譚である。小説家になろう様、カクヨム様、ノベマ様、ツギクル様でも掲載させていただいております。そちらもよろしくお願いします。

おいでませ異世界!アラフォーのオッサンが異世界の主神の気まぐれで異世界へ。

ゴンべえ
ファンタジー
独身生活を謳歌していた井手口孝介は異世界の主神リュシーファの出来心で個人的に恥ずかしい死を遂げた。 全面的な非を認めて謝罪するリュシーファによって異世界転生したエルロンド(井手口孝介)は伯爵家の五男として生まれ変わる。 もちろん負い目を感じるリュシーファに様々な要求を通した上で。 貴族に転生した井手口孝介はエルロンドとして新たな人生を歩み、現代の知識を用いて異世界に様々な改革をもたらす!かもしれない。 思いつきで適当に書いてます。 不定期更新です。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

処理中です...