上 下
515 / 745

515喜び

しおりを挟む
******(ソード)

拓殿の所で働く事が出来るとは有難い。
子供も独り立ちし、妻との2人生活なら今までの貯蓄と退職金で生活は出来るが、
何か仕事はしたいと思っていた所だった。
残念ながら、拓殿は俺達の事は覚えていなかった。
直接の接点は無かったから仕方がないか。
覚えていれば色々と礼を言いたかったが、退団した時点で拓殿達の事を話す事は禁止されているからな。
その分、仕事をしっかりさせて頂く。

しかし、ジーク殿とロウガ殿の剣術は凄かった。
騎士団の兵士達では敵わないだろう。
良い機会だ。俺も鍛錬に励むことにしよう。

その前に、妻に報告して今夜は祝い酒でも飲むか。


******(ルミナス)

何時からか、自分が男だということに違和感を感じる様になっていた。
そんな事を誰にも話す事も出来ずにいたけど、そんな状態に耐えきれず
仲の良い同僚に自分の心は女だと言ったら、次の日から全員から汚物の様な見られ方をした。
それも、店の人とは関係ない人にまで・・・
そんな中、ジャンだけは今まで通り接してくれ、今回の店を手伝わないかと声を掛けてくれた。
ジャンが食べさせてくれたカレーという料理を食べて衝撃を受けた。
こんな食べ物を出す店に、私なんかを誘っても良いのかと思ったけど

「ここのオーナーなら、きっと大丈夫。
 逆に、会う時は素の姿で話した方が良い。自分を偽ると、変に疑われるよ。」

そうは言われたけど、怖かった。
ニックさんと先に会う事になり、自分の事を正直に話した。すると

「色々と大変だったでしょう。
 そうですね、拓殿と会う時は普段通りの姿で会った方が良いかもしれません。
 そうでないと、逆に変に思われてしまうかもしれませんので。」

ジャンと同じ事を言う。
それに、私を気持ち悪がる事も無く普通に受け入れてくれている。
一体、オーナーってどんな人なんだろう。
ジャンにもニックさんにも聞いてみたが、「会ってのお楽しみ」と言われてしまった。

暫くは仮契約と言う事で、寄宿舎の空いている部屋に泊めてもらうことになった。
事情を話し、そのまま女の子の格好で居たが特に偏見を持たれることは無かった。
子供達は「ルミナスおねえちゃん」と呼んでなついてくれた。
ただ、カーンさんは、私とどう接すれば良いのか分からなかったみたいだ。

「あんた、何を戸惑っているんだい。普通に女の子として接すれば良いだけじゃないか。」
「そうなんだけどよ。風呂とかどうするよ。」
「・・・そんなの1人で入れば良いだけじゃないか。」
「そっか、そうだよな。いや、一緒に入ったら問題かと思っちまってな。」
「何を馬鹿な事を言っているんだい。ルミナスちゃんゴメンね。暫くは共同生活だから基本的なルールを決めておこうかね。」

カーンさんの奥さんは赤くなっているカーンさんの背中を叩くと、私が問題なく過ごせるようにと気を使ってくれた。
奥さんは私の事を普通に女の子として扱ってくれ、カーンさんも私との接し方が分かると奥さんと同じ様に女の子として対応してくれた。


今日、拓さんと会った時、本当にこんな子供がオーナーなのかと思った。
そして私が男だと知って驚かれたけど、何の問題も無く受け入れてくれた。
それどころか、誰も私に嫌悪感を抱かないのに驚いた。

私を普通に受け入れてくれた皆の為にも絶対に店は成功させて見せるわ。

「私、頑張るわ。絶対に店を成功させて見せる。」

思わず、大きな声で叫んでしまい周りを見たけど、誰も居なくて良かった。

しかし、ガラさんの言う危険な変わり者って拓さんの事なのかしら?
あの年で、こんなに大きな店を構えるなんて変わっていると言うより凄いと思うけど、危険って何?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お布団から始まる異世界転生 ~寝ればたちまちスキルアップ、しかも回復機能付き!?~

雨杜屋敷
ファンタジー
目覚めるとそこは異世界で、俺は道端でお布団にくるまっていた 思わぬ″状態″で、異世界転生してしまった俺こと倉井礼二。 だがしかし! そう、俺には″お布団″がある。 いや、お布団″しか″ねーじゃん! と思っていたら、とあるスキルと組み合わせる事で とんだチートアイテムになると気づき、 しかも一緒に寝た相手にもその効果が発生すると判明してしまい…。 スキル次第で何者にでもなれる世界で、 ファンタジー好きの”元おじさん”が、 ①個性的な住人たちと紡ぐ平穏(?)な日々 ②生活費の為に、お仕事を頑張る日々 ③お布団と睡眠スキルを駆使して経験値稼ぎの日々 ④たしなむ程度の冒険者としての日々 ⑤元おじさんの成長 等を綴っていきます。 そんな物語です。 (※カクヨムにて重複掲載中です)

はずれスキル『模倣』で廃村スローライフ!

さとう
ファンタジー
異世界にクラス丸ごと召喚され、一人一つずつスキルを与えられたけど……俺、有馬慧(ありまけい)のスキルは『模倣』でした。おかげで、クラスのカースト上位連中が持つ『勇者』や『聖女』や『賢者』をコピーしまくったが……自分たちが活躍できないとの理由でカースト上位連中にハメられ、なんと追放されてしまう。 しかも、追放先はとっくの昔に滅んだ廃村……しかもしかも、せっかくコピーしたスキルは初期化されてしまった。 とりあえず、廃村でしばらく暮らすことを決意したのだが、俺に前に『女神の遣い』とかいう猫が現れこう言った。 『女神様、あんたに頼みたいことあるんだって』 これは……異世界召喚の真実を知った俺、有馬慧が送る廃村スローライフ。そして、魔王討伐とかやってるクラスメイトたちがいかに小さいことで騒いでいるのかを知る物語。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

おいでませ異世界!アラフォーのオッサンが異世界の主神の気まぐれで異世界へ。

ゴンべえ
ファンタジー
独身生活を謳歌していた井手口孝介は異世界の主神リュシーファの出来心で個人的に恥ずかしい死を遂げた。 全面的な非を認めて謝罪するリュシーファによって異世界転生したエルロンド(井手口孝介)は伯爵家の五男として生まれ変わる。 もちろん負い目を感じるリュシーファに様々な要求を通した上で。 貴族に転生した井手口孝介はエルロンドとして新たな人生を歩み、現代の知識を用いて異世界に様々な改革をもたらす!かもしれない。 思いつきで適当に書いてます。 不定期更新です。

前世の記憶で異世界を発展させます!~のんびり開発で世界最強~

櫻木零
ファンタジー
20XX年。特にこれといった長所もない主人公『朝比奈陽翔』は二人の幼なじみと充実した毎日をおくっていた。しかしある日、朝起きてみるとそこは異世界だった!?異世界アリストタパスでは陽翔はグランと名付けられ、生活をおくっていた。陽翔として住んでいた日本より生活水準が低く、人々は充実した生活をおくっていたが元の日本の暮らしを知っている陽翔は耐えられなかった。「生活水準が低いなら前世の知識で発展させよう!」グランは異世界にはなかったものをチートともいえる能力をつかい世に送り出していく。そんなこの物語はまあまあ地頭のいい少年グランの異世界建国?冒険譚である。小説家になろう様、カクヨム様、ノベマ様、ツギクル様でも掲載させていただいております。そちらもよろしくお願いします。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

せっかく異世界に転生できたんだから、急いで生きる必要なんてないよね?ー明日も俺はスローなライフを謳歌したいー

ジミー凌我
ファンタジー
 日夜仕事に追われ続ける日常を毎日毎日繰り返していた。  仕事仕事の毎日、明日も明後日も仕事を積みたくないと生き急いでいた。  そんな俺はいつしか過労で倒れてしまった。  そのまま死んだ俺は、異世界に転生していた。  忙しすぎてうわさでしか聞いたことがないが、これが異世界転生というものなのだろう。  生き急いで死んでしまったんだ。俺はこの世界ではゆっくりと生きていきたいと思った。  ただ、この世界にはモンスターも魔王もいるみたい。 この世界で最初に出会ったクレハという女の子は、細かいことは気にしない自由奔放な可愛らしい子で、俺を助けてくれた。 冒険者としてゆったり生計を立てていこうと思ったら、以外と儲かる仕事だったからこれは楽な人生が始まると思った矢先。 なぜか2日目にして魔王軍の侵略に遭遇し…。

処理中です...