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462光を失う

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倒した海賊だが、アジトの位置を吐かせて潰してしまいたいのだが、当然誰も話さない。
話そうと話さまいと、海賊は危険地帯での強制労働と決まっているからだ。
船乗りたちは叩きのめして無理やりにでも吐かせようと考えているが、

「海賊を発見したのも、我々への攻撃を防いだのも、撃退もOZだけで行った。
 最終的には裁判に掛けることになるが、ここで海賊達をどう扱うかはOZの裁量に任せる。」

カミーラ船長がそう言ってくれたので、海賊達にはレオとアルの練習台になってもらう。
数人選んでレオ、アルと戦わせる。
海賊がどれだけ傷つこうとも俺の治癒魔法で完治できる範囲内なので問題は無い。
グリムに言わせると本気の戦いは俺や浩司の魔法攻撃を使った訓練とは違う経験になるそうだ。
人数を変え、海賊の組み合わせを変えて戦わせた。
レオとアルが疲れると、

『ここからが、本当の訓練じゃ。休ませず海賊をぶつけていけ。
 敵はこちらの状態なんぞ気にしてくれはせんぞ。』

グリムが嬉しそうに訓練を続けさせる。
その間、俺と浩司は海賊の見張りと治療を行っている。
かなり酷い怪我をした海賊もいたが、問題なく治療ができた。

何度も、何度も潰されては治療され、また潰される事を続けると、海賊に戦う意思が無くなり訓練にならなくなる。
あからさまに手抜きをし、俺が近付いた時に攻撃を仕掛けてきた海賊達には闇魔法で縛り付け、
見せしめに死なない程度の毒を飲ませて苦しみにのたうち回らせてから訓練に参加させる。

しかし、そう長くは続かず戦う順番が来ると許しを請い始め、アジトの場所を教えると言ってくる。
それを知りたいのは兵士や船員であって俺達ではない。

「海賊は自由を失い強制労働が確定しているんだろ。
 お前達にとっても、俺達を倒して生き残るチャンスだぞ。こんなチャンスを逃して良いのか?」

それでもレオとアルに徹底的に打ちのめされ続けると、恐怖心が先立ってしまいまともな訓練にならなくなってしまう。
正直、どちらが悪人か分からない状態だ。
休ませれば復活するかと思ったが、海賊の態度は変わる事も無く俺達の訓練は終わってしまった。
その後、船員がアジトの場所を聞き出し素直に答えて牢に繋がれている。

海賊なのに素直すぎる。
オーラでは感じられないが、アジトの仲間と合流して反乱でも起こすのではないだろうか。
用心しておいた方が良いだろう。


******(船員C)

海賊が襲ってきた時は命を失う覚悟まで決めたが、終わってみればOZだけで対応・・・
正確には拓殿、浩司殿、レオ殿、アル殿の4人で戦いは終結していた。
あれを戦いと呼べればの話だが。
正直、レオ殿とアル殿の訓練をしている様にしか見えなかった。
流石に強過ぎるだろう。
海賊達が倒されていくのを、俺達はただ見ているだけだった。

そして、可愛いと思っていた拓殿は鬼だった。
海賊を倒したのは良いが、どんな怪我をしようと治療しては無理やりレオ殿とアル殿と戦わせる。
治療を受けた海賊が拓殿を襲おうとする事も有ったが、逆にあっさりと抑え込まれていた。
それどころか、拓殿に見せしめの様に悶え苦しんでいる状態をさらされていた。

初めは「殺してやる」と言っていた海賊達も次第に目から光を失っていく。
ただ相手の訓練の為に叩き潰され続ける状態。
どんな怪我を受けても治療され、死ぬことも許されない。
体力を落とさせないために栄養だけある食事を取らされ、戦いだけを続けさせられる。
そんな地獄の様な状態では、体は回復できても心が死んでいくのだろう。
それでも、毒で脅したり、なだめすかしたりして戦わせようとするとは。

初めはOZの考えを甘いと思っていた俺達も、この状況にドン引きだった。
後の事は俺達が引き受けたのだが、今まで行ってきた行為も、アジトの事も素直に話していた。
必要な事は全て聞き出し部屋から退却させようとすると、

「彼奴等の所に戻さないでくれ。」「大人しくしている。牢につないでくれ。」

と泣きながら訴え机にしがみ付いて離れようとしない。
大人しくした先には強制労働しかないのだが、死ぬことも許されない地獄を味わい続けるよりはましなのだろう。
何とか牢屋に連れて行き、鎖につなぐと静かに静かに座っていた。
レオ殿とアル殿が様子を見に来ると、震える体を壁に押し付け少しでも後ろに下がろうとする。
拓殿は反乱を起こす事を期待しているみたいだが、あの状態だとそんな事は無いだろう。

マッサージを受けていた時、何度も拓殿に手を出したい思ったが、我慢していて本当に良かった。
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