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390ハン

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イルミネーションの点灯式も無事に終わり、パレードを行う日まで間が有るので何時もの通り訓練や練成術、本を読んだりして過ごしていると

「ねぇ、拓ちゃん。ちょっと町に繰り出してみない。」

サリナ姫が誘ってくる。
流石に、この人込みの中に入って行くのは、警備上問題になる。
サリナ姫も分っているはずなのに…

「私の婚約が決まったじゃない。
 直ぐにどうなる話では無いけど、来年はどうなるか分からないのよ。
 もしかすると、この町に来れるのも最後かも知れない。
 勝手なことを言っているのは分かるけど、町に出てみたいの。」

政略結婚か。
俺達に出来るのは、そんな事くらいか。
相手次第では、毒を盛る事も考えても良いかもしれないが・・・

「勝手に抜け出す事は出来ないけど、ブルネリ公爵を説得してみます。」

良いことか分からないが、願いを叶えて上げたかった。
ブルネリ公爵にはエアウォークまで見せて、俺と浩司なら群衆からでもサリナ姫を連れて逃げられると説得すると

「拓殿、浩司殿。サリナ様の事をお願いします。」

バラキエ侯爵はブルネリ公爵が対応してくれると請け負ってくれた。
サリナ姫には市民の格好をしてもらい皆で町に出る事にした。
ヤマトもルドルフ料理長から引き離し、サリナ姫の警護を手伝ってもらう。
サリナ姫とは俺と浩司が一緒に行動し、少し離れた所からガラ達が隠れて護衛を行ってくれている。

屋台での食べ歩きをした後は、バザーで売り物を眺めていた。
町の中は何処もお祭り騒ぎで皆楽しそうにしている。
バザーも盛況で、冬だと言うのに色々な国の商品が並んでいて面白く、サリナ姫も楽しそうだ。

「それって、光るグラスですか。」

屋台の奥に俺が作ったのに似せたグラスが3倍の値段で売られていた。

「お客さん、目が肥えているね。こうやって魔力を流すと光るんだ。
 在庫も少ないから、買うなら今だよ。」

近くで見ると、話には聞いていたが想像していた以上に質が低かった。
形もいぶつで、光も濁っている。魔法陣が雑過ぎだろう。
この程度の物がこの値段で売れるなら、俺の作ったのなら10倍の値段を付けても良いくらいだ。
何か所で同じ様な商品を見かける。

「本当にこれが昨年噂になった光るグラスなのか。」

「そうです。これは期間限定で売られたので、手に入れるのは難しいですよ。」

と言う会話が別の露店から聞えてくる。
気になったので少し覗いてみると、ここで売られていたのも完全に偽物だった。

「それは、本物じゃないわ。本物は見た目も輝きも、ずっと綺麗よ。」

サリナ姫が余計な事に口を挟んだので、店主が文句を言い出す前に無理やり手を引いてその場を逃げ出した。

「急に何を言い出すんです。変に目立たないで下さい。」

「あの程度の物を本物だと言われて悔しく無いの。あれは詐欺よ。
 あんなの拓ちゃんのと比べ用も無い位酷いじゃない。」

サリナ姫は俺の為に怒ってくれたとなると、あまり強くは言えない。
来年から再び販売を行う事にしたので、あの手の粗悪品が出回らなくなると教えると、少しは怒りが収まったみたいだ。
少し歩き疲れたので、何処かの店にでも寄ろうと考えていると

「さっきは助かったよ。お陰で、騙されずに済んだ。」

店に居た男が礼を言いに俺達の所にやってきた。
少し遅れて、「若、お待ち下さい。」と40歳位の厳つい人が付いて来る。
この男、何処かの貴族なのだろうか。そうなると、厳つい人は護衛と言った所か。
ウルトラアイで見ると護衛の人は綺麗な強いオーラを纏っている。

「俺はハン。こっちはガゼルス。見た目はこんなだけど、良い奴だよ。
 その、昨年売られていたグラスについて話を教えてもらえないか。」

それにしても、ハンさんは貴族にしては気さくだ。
若と言われたからと言って、貴族では無く金持ちの息子と言う事もあり得るか。
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