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386ヨーゼフさんの店

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そろそろ、ブルネリ公爵領へ移動する事になり、地下庭園で育てている光苔を少し持っていく事に。
何か有った時の為にも育てる場所を増やしておきたい。
それに、魔力を与え続けている時と、自然に増えるのを比べると育ち方の差は大きい。
常に魔力を与え続けられる人が居る所で育ててもらった方が良いだろう。
合わせて、俺が練成術で用意したポーションと解毒剤を用意しておいた。
ブルネリ公爵邸に薬を保管しておくための拡張ボックスが有るので、そこに入れておけばいざという時に使える。


今回もニックさんが馬車を用意してくれ、皆で一緒に移動。
今回は、ロダン侯爵領の劇団員や、ヨーゼフさんの商店が開く店の事が気になり一日早く到着する予定だ。
ブルネリ公爵邸に着くと、セバスチャンが劇場へ案内してくれる。
団員に挨拶して、魔道具のチェックを行ったが特に問題なし。
今回の劇は完全にオリジナルの新作らしく、本番を見るのが楽しみだ。

次に、ヨーゼフさんの店に寄ろうとすると、何故かブルネリ公爵、ルドルフ料理長まで一緒に付いてくる。
色々な人が外から来ている時期なので危険かと思ったが

「OZ、アーク、クリームと一緒ほど、安全な事は無いからな。
 それにOZが係わった店なら、一度見ておいた方が良いだろう。」

と押し切られてしまった。
最近のブルネリ公爵は仕事が忙しく屋敷に籠り気味だったので、俺達をダシにして外に出たかったらしい。
一応、店には皆で顔を出す事を事前に伝えておいたので、3人増えても大丈夫だろう。

ブルネリ公爵が「せっかくなので、歩いて行こうじゃないか。」と言うので、町の活気を感じながら店に歩いて向かった。
店にはヨーゼフさんが居て、俺達を迎えてくれたのだが俺達の後ろにいるブルネリ公爵の姿を見ると

「まさか公爵自ら私どもの店に来て頂けるとは。ありがとうございます。
 では、こちらへどうぞ。」

一瞬、予定外の事に驚いたみたいだが、直ぐに対応してくれたのは流石だ。
店は、奥に簡単な個室がある一般市民向けの作りになっていた。
けっこう繁盛しているしている様で、満席となっていた。
俺達は奥の個室に案内されたのだが、客がブルネリ公爵に気付くと皆が立ちあがろうとするので

「立たなくても良い。そのまま料理を楽しんでくれ。」

ブルネリ公爵は客の行動を止めると、そのまま奥の個室へと進んで行った。
急に自分達の領地の公爵が現れたとなれば驚くよな。

先ずは飲み物を頼む事にしたが、流石にブルネリ公爵の護衛も有るので酒は止めておく。
飲み物と合わせて料理が運ばれてくる。

「ほう、なかなか美しく盛られているな。それに器も良い。」

ブルネリ公爵に俺が作った器を褒めてもらえて嬉しい。
食べてみると、一般市民向けの素材を使っているが、丁寧に下ごしらえをしているのが分かる。

「これが、レオ殿の料理本を元にして考えた料理か。
 基本を広めれば、後は色んな人のアイディアが盛り込まれて新しい料理が出来るものだな。
 このアーモンドの使い方なんて面白い。」

ルドルフ料理長も気に入ったのは、普通の衣の代わりにアーモンドを使った天ぷらだ。
香ばしいアーモンドの香りが良い。
また新たなレシピを考えているみたいだ。
新しい物を知り、刺激を受けるのは良い事だ。
食材を扱っている商人の店だけ有り、素材の使い方が素晴らしいと思う。
ここで出される料理なら、ラグテルの町の店でも出てくるのだろうか?
これからは、時々 外食をする様にした方が良さそうだ。

最後のデザートを待っているとヨーゼフさんが顔を出した。

「後はデザートになりますが、その前に、こちらの料理を味わってもらえないでしょうか。」

料理長が持ってきたのは、アルのセンス満載の器に盛った料理。
独特な器をどうしたのか気になっていたが、料理長は見事に使いこなしている。

「この器をこんな風に使いこなすなんて凄いです。
 本当に凄い。こんな発想は俺には考えられなかった。」

思わず驚いてしまった。
俺の発想は元の世界で知っている事の組み合わせだけで、全く異なる物を作り出す事は出来ていない。
やはり色んな人が考えてアイディアを絞り出すと面白い物が見られる。
浩司に服の裾を引かれ、騒いだ事を謝った。

「いえ、喜んで頂いてありがとうございます。
 こちらの器を譲って頂いてから、どの様に盛ったら良いか考え続けていました。
 お客様の前に出すのは初めてでしたが、気に入って頂ければ何よりです。」

そう言うと、料理長自ら料理を取り分けてくれた。
流石に人数分はなく、足らない分は別に用意してくれていた
この器を考えたアルも、嬉しそうに食べていた。
そして、最後のデザートは色々なフルーツが入ったゼリー。
砂糖が高級品の為か甘味が抑えられているが、代わりにフルーツの甘味が良い。
やはり、生フルーツが手に入る環境は良いな。

「どうした、拓殿。最後のデザートに何か有ったか。」

「いえ、ラグテルの町でもフルーツが栽培されないかと思いまして。
 生のフルーツは美味しいですよね。」

そんな話をしている所に、ヨーゼフさんが挨拶の為に顔を出してくれた。
それとなくラグテルの町で生フルーツが手に入らないかと聞いてみたが、残念ながら輸送代を考えると難しいそうだ。
ラグテルの町にも十分需要があるとは思っているが、栽培まで手を広げるのは厳しいとの事。

店を出る時、最後にヨーゼフさんに

「本当にありがとうございました。」

と深々と礼をされてしまった。
後でアルの器を作って届ける事にしよう。
そんな事を考えていた俺を見て、エチゴさんが苦笑いをしていた。


内輪だけのイルミネーションに合わせて、サリナ姫、バラン将軍一向がやってきた。
今回もバラキエ侯爵が一緒に居るのに、オリバー隊長は仕事で来れないらしい。
サリナ姫達はイルミネーションの手伝いをしたがっていたが、バラキエ侯爵の手前我慢しているみたいだ。
そのバラキエ侯爵はブルネリ公爵に挨拶をすると、最低限の礼儀として顔を出すだけで、殆どは部屋に引き籠っていた。
他にクロイツ伯爵、ロダン侯爵達がやってきた所でイルミネーションの点灯式が始まった。

イルミネーションの規模が少しづつ広がっている。
俺が用意した光の魔道具も有るが、ブルネリ公爵の方でも光の魔道具を用意し星型のモニュメント等の新しい試みがされていた。
そして、2日目。
ブルネリ公爵に連れられて全員で劇場に足を運ぶと、ロダン侯爵領の劇団が事前ステージを開催してくれた。
劇団名は「水と光の劇団:虹」となっていた。
光と水、そして影の舞台は美しく迫力が有り面白かった。
貴族が集まった所では俺達が楽しめないと思い、ブルネリ公爵が事前に講演を依頼してくれたそうだ。
俺の魔道具をこんな風に使ってもらえたと思うと嬉しかった。
やはり魔法は攻撃より、こんな風に使う方が楽しくて良い。
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