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317粗品

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年末の餅つき大会、初日の出にお節と正月を満喫した後は、バラン将軍の部下とブルネリ公爵の兵士の合同による武術大会。
訓練場の周辺に観客席を設けて、意外と立派な会場となっている。

「本日、我が兵士とバラン将軍の部下合同の武術大会を行う。
 互いに、相手尊重し良い戦いを行ってもらいたい。検討を祈る。」

ブルネリ公爵の開会の挨拶の後、バラン将軍から注意事項が読み上げられ優勝者への景品が紹介された。
景品は、高級ワインと、ワイングラスのセット。おまけに俺が作った5得ナイフ
どんな物か紹介してくれと言うので、俺のナレーションに合わせて即興劇をする事にした。
主役は、ジェニファーさん。

「以前、冒険者になるか女優になるか悩んだのよ。私の可憐な実力を見せてあげるわ。
 拓ちゃんがしくじっても、私がフォローするから大船に乗った気持ちでいてね。」

今まで3文芝居を見ているので、泥船の間違えではないかと思いつつ劇を始めた。


******

「1人の女性が薬草を採りに森の中を歩いています。
 しかし、森は深く女性は帰り道が分からなくなってしまうかも知れません。
 そんな時は、この5得ナイフ
 普段は折りたたんであるナイフを開き木の幹に傷をつけて帰り道を確保して歩きましょう。」

ジェニファーさんがナイフを開いた状態で皆に見えるように上に掲げ、幹に傷をつける真似をした。

「徐々に辺りは暗くなり、足元も良く見えなくなってきました。
 しかし、薬草の有る場所は未だ先です。ここで止まる訳にはいきません。
 そんな時は、この5得ナイフ
 黄色いボタンに魔力を流してみると、なんと光りが。
 これで、女性も暗い夜道を歩く事が出来ます。」

ジェニファーさんがライトを付けて、変な踊りを舞っている。
結構、強い光なので向けられた人にとっては迷惑だが、気にせずに暫く舞続けていた。

「長い時間、歩いて女性はお腹が空いてきました。
 こんな時は火を焚いて暖かい物を食べたくなるものです。
 そんな時にも、この5得ナイフ
 赤いボタンに魔力を流してみると…なんと先端から火が。
 さぁ、これで薪に火をつけて温かい食事にしましょう。」

黒子となったニコラスさんが薪を用意し、ジェニファーさんが5得ナイフに魔力を流すとガズバーナーの様な火が放出した。
その火の勢いにジェニファーさんは驚き、見ていた兵士からは「お~」との声がする。
薪に火を向けると、簡単に火を付ける事が出来た。

「さぁ、温かい物を食べて元気になった所で薬草探しを続けよう。
 随分と歩いて、やっと薬草を見つける事が出来た。さぁ、ナイフで薬草を切り取ろう。
 でも、今日は歩き過ぎてつかれてた。今夜はここで休みたいけど寒い。
 こういう時に限り、周りに燃やせそうな木が見つからない。
 しかし、そんな時も、この5得ナイフが有れば大丈夫。
 オレンジのボタンに魔力を流してみると、5得ナイフがカイロになって温かい。
 これで、暖を取る事にしよう。」

実際にジェニファーさんが魔力を流しすと「嫌だ、本当に暖かいじゃない」とつい声が出てしまい、兵士達からくすくすと笑う声が聞こえてくる。

「朝になり、無事に薬草を見つけた女性は家に帰る事に。
 木の幹につけた傷を辿れば迷子にもなりません。
 しかし、油断は禁物。なんと女性は魔獣に見つかってしまいました。」

ジークさんとトムさんが魔物の被り物をしてジェニファーさんの前に現れる。

「どうしよう。そうだ、こんな時も5得ナイフ。
 大きく振りかぶり、魔獣に投げつけて怯んだ所で急いで逃げる。」

演じていた3人だけでなく、兵士も何か言いたげな顔で俺を見ていた。
これだけの人が居るのに、全員無言。

『ワッハッハ。ここまで受けないというのも凄いものじゃな。別の意味で笑えるぞ。』

『違うにゃ。これは静かにさせる呪文にゃ。魔力を使わない新しい魔法にゃ。』

静かになってしまった中、グリムとヤマトの笑い声が俺の頭の中で響いている。
俺の高尚過ぎるセンスに、客が付いて来れなかっただけだ。

「投げるのは石でも良いですよね。
 石を投げて怯んだ魔獣から逃げた女性は、急いで走った為、手や腕を草で切ってしまいました。
 微妙に痛いこの傷。しかしポーションや傷薬は持っていない。
 こんな時にも、この5得ナイフ。
 白いボタンに魔力を流して傷口に当てると、簡単な切り傷なら治ります。
 こうして、無事に女性は家に帰れました。
 ちょっと便利な5つの機能を持った5得ナイフを優勝者への粗品として付けさせて頂きます。」


******

反応が無い。

光のコアはヘルメットライトを作る時の余り。
火のコアは料理で焦げ目をつける為に作ったバーナーの余り。
カイロのコアは冬に活動する為に作った時の余り。
最後の治癒のコアは練習で作ったが、細かい魔法陣を描くわりには治癒力が弱く、使い物にならないのでアイテムボックスに転がっているのを利用。
余り物を寄集めて買うほどではないが、もらったら嬉しい物にした予定だったが外しただろうか。

『個別ならともかく、あの組み合わせの発想は良いと思うぞ。
 1つの魔道具であれだけの機能が有れば重宝するじゃろう。
 それに、拓が好意で作ったんじゃ、もう少し気を使っても良かろうに。』

『吾輩が人間にゃったら5得ナイフは欲しいにゃ。優勝者も貰ったら、喜ぶはずにゃ。
 拓が凄いから、きっと過剰な期待をしているだけにゃ。』

グリムとヤマトに慰められて、更にダメージを受けてしまった。
落ち込んでいる俺の所にバラン将軍がやってくると

「拓殿、本当に あれを優勝者に渡すのか。」

わざわざ聞いて来る。そんな酷い物なのだろうか。

「粗品ですから。魔道具作りを仕事にしている訳ではないので、大目に見て欲しいのですが。」

「何を言っている。十分過ぎるほどの魔道具だ。拓殿は治癒の魔道具の価値を理解していないのか。
 兵士達も、拓殿が取りやめる事が出来なくなると思い静かにしているだけだ。」

「あれは軽い傷を直す程度ですよ。
 売っているのを見た事は有りませんが、使い物にならなくて需要がないのでは。」

バラン将軍に大きな溜息を吐かれてしまった。

「いや、需要が高く市場に出回っていないだけだ。
 治癒の魔道具は高級品だが、直ぐに売れてしまう。
 私も将軍になってから、伝手で何とか買えた位だ。」

バラン将軍の持っている治癒の魔道具を見せてもらうと、俺が作ったのと大して性能は変わらない。
薬で十分な気もするが、見栄なのだろうか?
俺としては、この世界の人が作れるのなら問題無い。
バラン将軍が、優勝者への商品として渡される事を言うと、兵士達から歓声が上がった。

価値観の修正が出来ていると思ったが、未だに駄目みたいだ。
次からは、エチゴさんに事前相談をする事にしよう。
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