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107村を捨てる

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******(カイ)

俺の住んでいた村は酷い場所だった。
生きるために、獣人は一日中働いた。いや、働くしかなかった。
体だけは大きかった俺も一生懸命両親の手伝いをした。

あの日の夜、20人程の獣人が村を棄てて逃げることにした。
冬の移動は大変だが、冬眠している魔獣も多く一番安全な季節だ。
これから向かうブルネリ公爵領は獣人の差別が禁止されているらしい。
寒さの中、厳しい移動だったが新しい町での生活に希望を持っていた。

後5日も歩けば町に着く・・・そんなときに、盗賊に襲われた。
皆バラバラに逃げた。父さんと母さんに手を引かれ何処を走っているのかも分からなかった。
レムも一生懸命に走ったが、大人の足には敵わない。
盗賊に追いつかれそうになった時、

「カイ、レムを連れて早く逃げろ。」

父さんと、母さんが盗賊に向かって行くのを見て、俺は泣いているレムの手を引いて森の中をひたすら走った。
風が強くなり、直ぐに吹雪になる。
この吹雪から身を守る場所を見つけないと。
数メートル先も見えなくなる中、レムを抱きしめて雪の中を進む。

「レム、大丈夫か。もう少し頑張ろうな。」
「お兄ちゃん、お父さんと、お母さんは」
「無事だよ。きっと後で会える。さあ、行こう。」

本当に会えるなら、どれだけ嬉しいか。
雪が降り足跡を隠してくれたが、俺達もこの雪の中で完全に道が分からなくなった。

「お兄ちゃん、もう眠いよ。」
「レム、寝ちゃだめだ。」

辺りは吹雪となり、もう歩くのは無理だ。
レムを抱きしめて少しでも温めようとしたが、俺も限界だった。

父さん、母さん、ごめんなさい。俺、レムを守る事が出来ない。

空耳か。吹雪の中で声が聞こえる。
人間だった。盗賊なら、一矢報いてやる。
俺と同じ位の子供も一緒だ
後から知ったが、浩司さんと拓さんだった。

「安心しろ、君達を助けに来た。他には誰も居ないのか。」

浩司さんが声を掛けてきたが、獣人の俺達を本当に助けてくれるのか心配だった。
魔法だろうか。浩司さんに抱きしめられると体全体を温かい空気が覆った。
拓さんは、この吹雪の中で探索魔法をかけていたのだろう。
他に人が居ないと分かると、どこかに連れて行く事を決めたみたいだ。
自分達のコートを俺達に着させると吹雪の中を軽々と走り抜けた。

連れて来られたテントには大勢の人間が居た。
でも、俺が知っている人間とは違う感じがする。
テントの中は暖かく、直ぐに新しい服の着替えを渡された。
レムだけは、なんとしても守りたい。
何でもやる、だから妹を助けて欲しいと言う俺の言葉に、レオさんが大丈夫と言って温かいスープを渡してくれた。
こんなに美味しいスープは初めてだった。
そして食べた事も無いフワフワのパンに甘いジャム。
俺達がどうなったのか話をしているうちに、レムが眠くなってきたのかウトウトとしている。
そんな姿を見て、寝場所を用意してくれた。
温かい布団の中、今が夢でない事を願いながら重たくなった まぶたを閉じた。
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