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093お年玉

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「皆さん、明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします。」
「こちらこそ、宜しくな。これは、俺とレオから拓ちゃんへのお年玉だ。」

ガラが渡してくれたのは小さい袋。
この世界にはそんな風習は無く、それとなく・・・いや露骨に何度もお年玉の事を話していた。
この年になってお年玉をもらえるチャンスを逃す気は無い。

「おぉ、子供の特権お年玉。ガラ、レオありがとう。」

断って、中身をみると金貨が10枚入っていた。

「なっ、何を入れてるの。お年玉の意味を分かってないだろ。」
「浩司からは小遣いと聞いていたけど、良い機会だから俺達からの礼を込めて。」
「いやレオ、幾らなんでも、こんな大金はダメだよ。」
「俺達がこうしていられるのも、浩司や拓ちゃんのおかげだしな。
 それに、拓ちゃんが用意してくれた道具を考えたら微々たるもんだよ。
 本当は別の形で返したかったけど、錬成の為の素材を買う足しにでもしてくれ。」

ガラが話は終わりという感じで言うので、お礼を言って受け取った。
初日の出も見たので、屋根から降りようとすると浩司に呼び止められた。
他の人達は全員降り、俺と浩司だけが残っている。

「なぁ、拓ちゃん。その、俺からのお年玉と言うか、何というか・・・」

浩司が緊張している。そのまま黙って話し出すのを待っていると

「これを受け取って欲しい。」

小さい箱を渡された。

「中身を見ても良いか?」

浩司が頷くので、箱の中を見るとシンプルな銀の指輪だった。

「俺達の付き合いを何か形にしたくて揃いの指輪を買ったんだけど嫌かな。」
「嫌な訳がないだろ。さっそく着けさせてもらうよ。やはり左薬指かな。」

緩くて、直ぐに抜けてしまう。そこで、魔道具のペンダントの鎖に通しておくことにした。

「何で、錬成術でサイズを合わせないんだ。」
「この指輪に対しては無粋な気がして。俺が大きくなってサイズが合うようになったら着けるよ。」

浩司に抱きしめられ、今年初めての少し長いキスをして屋根から降りた。


お節、お雑煮と正月の3日間を十分堪能した所で、ブルネリ公爵がこれからの予定を聞いてくるので

「一応、当初の目的だった本の方は読みましたので、そろそろ引き上げようかと考えています。」
「何か予定でも。」
「特には有りませんが、余り長居をするのも失礼ですし。」
「それなら、もう1ヶ月ほど滞在してはどうだろうか。」

ブルネリ公爵の話では、サリナ姫に足止めをするようお願いされているらしい。
遺跡調査での襲撃のため、暫くは外出禁止、年始は社交パーティ等もあり、しばらくは身動きが取れないそうだ。
来週、新年早々のパーティにはブルネリ公爵も出席しサリナ姫に挨拶をしに行く。

《サリナ姫の事だからストレスが溜まっているんだろうな。せっかくだから顔を見てから帰っても良いかな。》

OZのメンバーも同意してくれたので

「お言葉に甘えて、もうしばらくお世話になります。」
「それは良かった。サリナ姫も喜ぶ。そうそう、こちらを用意させてもらった。」

そう言って小さい袋を皆に渡した。

「私からのお年玉だ。」
「「ありがとうございます。」」
「喜んでもらえて何より。こういう風習も面白いな。」

中を見ると、金貨が1枚入っていた。
貰い過ぎだが、素直に頂くことにしよう。
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