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025魔法を使えない者

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夕方、エチゴさんが護衛の2人とやってきた。
護衛の2人も一緒に食べると思っていたが、後で迎えに来ますと言って帰って行った。
タランキュラスの鍋を前にして

「おぉ、こんなにタランキュラスの肉が有るなんて夢みたいだ。」

エチゴさんが待ちきれない感じだったので、直ぐに差し入れてくれた酒で乾杯した。
もちろん、俺はジュース。
さっそく、皆でタランキュラスに手を伸ばす。

「そう、この味です。しかし、鮮度も良く臭みが全くない。
 もしかして、拡張バッグを持っているのですか。」

エチゴさんの鋭い指摘を笑顔で流し、タランキュラスを食べる様に進める。

何度も味を確かめるように、頷きながら食べるエチゴさん。
あまりにもエチゴさんが嬉しそうなので他の3人は食べる量を少し抑えていた。
サラダに使っているマヨネーズも大変気に入ったみたいだ。
鍋の中身も無くなったので、スープの味を調えて〆の雑炊を作り全員の器につぐと、一気に食べてしまった。
満足、満足、エチゴさんも満面の笑顔だ。
お腹が落ちついた所で 浩司とガラがデザートを持ってきた。
俺も完成品を見るのは初めてだ。

「拓ちゃん、どう、俺のこの腕前。実は、ケーキが好きで自分でも作っていたんだ。」

「凄い。正直、驚いた。パテシエを目指せるよ。」

持って来たのは、奇麗にデコレーションを施したショートケーキだった。
浩司のドヤ顔が可愛らしい。
エチゴさんも喜び、そして一口食べて大興奮。

「この周りに付いている白いのは、もしかして生クリームなのか。
 このあっさりとした触感と程よい甘さ。噂に聞いた以上の美味さだ。」

浩司が自分に向けられるエチゴさんの熱い視線に困っているが無視。
悪いけど、俺はケーキを食べる事だけに専念させてもらう。
あっという間に食べ終え、全員がお代わりをして1ホールがあっという間に無くなった。
続いてアイスを出すと、

「初めて食べました。これは氷魔法を使って料理をしたのか。
 王宮で出されるのは氷菓子と聞いたが、こんなに冷たいのに氷でもない。
 それどころか、比較にならない濃厚で滑らかだ。」

自分の世界に入り込んだかと思うと、浩司に詰め寄った。

「いったい、これは何と言うお菓子ですか。」
「えっ、いや、これはアイスというお菓子です。」
「アイスですか。この様なものは初めて頂きました。」

浩司が俺の方を見て何か言おうとしたので、何も言うなと首を横に振る。
今のエチゴさんは少し怖い。
エチゴさんの興奮が落ち着いた所で、皆はまた酒を飲み始めたがエチゴさんは紅茶に切り替えた。

「これ以上酔って、せっかくの味を忘れたくないので。」

俺の前に座ると、楽しそうに今までに食べてきた食事の話しを始めた。
楽しく飲んでいる3人を眺めた後、俺の方を向くと

「拓さんは、人里から離れて生活をしていたんですよね。この町での獣人への対応をどう思いましたか?」
「幼稚ですかね。」
「では、魔法を使える事については?」
「便利な道具といった所でしょうか。」
「便利な道具と言うと?」
「実際、魔法が使えると何かを行う手段が1つ増えますから。
 魔法が使えなければ別の手段を考えれば良い。」
「拓さんにとって、魔法は手段の1つでしかないですか。」

エチゴさんが何が言いたいのか分らずにいると

「獣人は魔法が使えない。それだけで差別を受けています。
 私も、昔は獣人に対して差別と言うか、無関心でした。
 殆どの人にとっては、魔法は他人を測る物差しになります。
 私が冒険者だった頃、獣人の方に命を救われなかったら、未だに、その時のままだったんでしょうね。」
「しかし、昔はそこまでの差別は無かったと聞きましたが。」
「そうらしいですね。しかし、長い戦争で良質の魔道具やその技術が失われ
 魔獣から町を守る武器として魔法が主流になるにつれ差別が生まれたと聞いています。
 ギリス教という人間至上主義の宗教なんが力を付ける始末です。」
「……」
「申し訳ありません。楽しい食事の場で、余計な事を言ってしまいました。」

しばらくして、護衛の2人が迎えに来て食事会は終わりになった。
魔法を持たない者は劣っている。そんな考えが広まったら魔法以外の技術は育ちにくくなるだろう。
300年前より衰退するのは当り前か。

「それにしても、人間至上主義なんて物騒な感じだな。」

『300年で人間も腐ったものだ。祀られた神も迷惑な話じゃろう。』

ちなみに、氷魔法を使う魔導師は少ないらしく魔法は戦いに使うもので料理には使う事は殆どない。
夏に冷たい菓子は特別な所でない限り出てこないらしい。
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