欲にまみれた楽しい冒険者生活

319度胸試し

早目の夕食を終え、皆で度胸試しの会場へと進む。
村の若い人が集まり、恋人同士で参加するカップルも居る。
度胸試しと言っても、怖がる若い人を見て大人が笑う一種の村の娯楽。
しかし、今年は何時も以上に怖いらしく、先に行った人の悲鳴が響いている。

カップルが歩いていると、首筋や足元に冷たい風が吹く。
そして、女の足が何かにつかまれた。
女は恐る恐る下を見ると、

「きゃ～、足が足が、手で・・・」

青白い手が自分の足首を掴んでいた。
思わず、足を強く振って男にしがみ付く。
男が女の足元を見るが水溜まりが有るだけだった。
男は女をなだめて先に進むと、今度は光の玉が周囲を浮いていた。
光の玉はユラユラと揺れていたが、木の下に集まると仄かに光る長い髪の女性の後姿になる。

カップルはその様子に思わず見入っていると、女性が振り向いた。

「「ギャ～！」」

目も鼻もない顔に、口だけが大きく裂けている。
そして、首が伸び、顔だけがカップルに近づいて来る。
カップルが走り出すと、先の地面には地面から青白く光る半透明の手がうねうねと動いている。
男は女の手を引き無我夢中で祠まで走り抜けると、後ろを振り向く。
そこには口の裂けた女性も、蠢く手も無い。

これが度胸試しだと思い出し、思わずカップルは力なく笑う。
そして、祠に名札を置こうとすると、目の前に白い面が浮かんでいる。
一瞬びっくりするが男が名札を置く。その時、白い面の目と口から赤い血が流れ、札を置いた男の手に滴り落ちた。

「「ギャ～～～」」

今回の度胸試しにおける最後の悲鳴が響き渡った。


度胸試しが終わると、村人達の宴会に出席した。
酒の肴は、驚いている参加者たちの映像。
大人達が警備を兼ね驚いている姿を写真に収め、それが上映される。

「いやいや、今回は本当に凄かった。」
「事前に知って無ければ、ワシ等も驚いて腰を抜かしていたわ。はっはっは。」

大人達は大いに盛り上がり、若者もお互いの姿を見て笑っていた。
拓が休憩所作りをしている魔導士だと知っているのは村長だけで、他の村人は只の中級魔導士として話しかけてくる。
拓が使った水系の魔法と光系の魔法。
初めの冷たい風は、冷たい霧を当てていた。
拓が改めて使った魔法を披露すると、驚かされた側も「へ～」と感心して見ていた。

今回は余りにも拓の仕掛けた魔法が凄く、全員が驚いた姿を晒していたので問題ないみたいだ。
逆にもう一度やってみたいという声まで上がっていた。

写真の中には、ＯＺ、クリーム、エチゴ、アルの驚いている姿も有る。
ただ、ジェニファーとロビンの場合、攻撃魔法を放ちまくっていて
魔導士を驚かせる場合は、注意が必要だという教訓を得ることになった。


拓も上機嫌で脅かし役の村人と話をしていると、以前は地底湖の魔獣の料理が並んだという。
話を詳しく聞くと、以前は地底湖で取れる魔獣の肉がここの特産品となっていたが
王都周辺で起きた異変と同時に地底湖に巨大な魔獣が現れ、門が取り付けられ村長の許可なく砂浜に降りれない様になった。

「砂浜？」
「拓殿は、未だ地底湖を見て無いのか。なら、その辺は見てのお楽みだ。」

せっかくなので、拓もそれ以上は聞かず明日の楽しみにした。
その代わり魔獣の料理に付いて話を聞いたのだが、どれも美味そうで魔獣が捕れないのが残念だった。

「そういえば、今度冒険者が来て魔獣を狩りに来るはずだ。」
「そんな巨大な魔獣が居るのに大丈夫なのですか？」
「実力のある冒険者達だから大丈夫だろう。大量に捕れれば肉が買えるぞ。」

拓は大量に捕った時には買おうと決めていた。