欲にまみれた楽しい冒険者生活

036加速装置

髭面の大男が３人の前に立ち睨んできたかと思えば、急に笑い始めた。

「今回の応募者は強いな。先ずは合格だ。次は剣の腕を見る。」

髭面の男が次の試験を行おうとした時、ティムが戻ってきた。

「待ってくれアル。そちらの拓さんは護衛で応募してきた訳ではない。」
「そうなのか。さっき威圧をかましたが、何とも無かったけどな。」

拓は初めてアルが威圧を仕掛けてきたことを知った。
拓はダイフクと一緒に庭の隅に移動し、ガラとレオが打ち合うのを見ていた。
アルはレオが互角に打ち合ってたのだが、更に強いガラとも互角だった。
どうやら、相手に合わせて攻撃をしているみたいだ。

「２人ともすげぇな。特にガラは本気を出していないだろ。
　一緒に護衛が出来たら心強い。合格してくれよ。ついでに拓も腕試しをしてみないか。」

急に振られて困る拓だったが、ガラやレオにも勧められ試合をする事になった。
拓が取った手段は、体力を強化し庭を縦横無尽に走り回りながら魔法攻撃を続ける事だった。

「魔導士とこんな風に戦えるなんて面白れぇ。未だ未だ未だ。」

アルは攻撃を避けながら拓を追いかける。
初めは簡単な打ち合いか、攻撃魔法か防御魔法が使えるなら強さを確認するつもりだったが、こんな風に戦えるとは思ってもみなかった。
テンションが上がり、楽しくて仕方ない。

拓は魔法で体力強化をしているにも関わらず引き離す事も出来ない。
どうやら武技で体力強化を行っているみたいだ。
足元に土の盛り上がりを作って引っかけようとしても、穴を掘って　つまづかせようとしても全て避けられる。

「必殺　加速装置。」

拓は更に体力強化をしてスピードを上げたのだが、自分の掘った穴にこけて自爆。
そこで試合は終了となった。

「はっはっは、強化した体に自分が付いて行けてないじゃないか。」
「全く、魔法で更に強力に体力強化しただけだろ。加速装置って何だよ。」

見事に顔面から倒れた拓を、笑いながらガラとレオが抱き起す。

「大丈夫か。荷物を運ぶ役割として来たのに無理をさせてすまなかった。」
「本当ですよ。全くアルの無茶ぶりは困ります。やり過ぎなんですよ。」

拓は問題ないと言いながらシュンとするアルの姿が可愛いと思っていると、ガラとレオにほほを引っ張られる。
実技で合格をした所で、依頼主のエチゴと面談をすることになった。
部屋に通されると、４０歳くらいの恰幅の良い優しそうな男が迎えてくれた。
１時間ほど雑談をした所で、拓に対人戦について質問され訓練で戦った事しかないと答えると

「後ほど、ギルド経由で正式依頼を行わせて頂きます。」

何故か合格となり、説明を受けた。ただ、移動工程については当日の説明となる。

「なぁ、ガラ。エチゴさんとの面談は何だったんだ？雑談していただけで終わったけど。」
「俺達の人となりを確認していたんだよ。特に拓は考えていることが顔に出るから分かり易いからな。」
「最後の質問は、答えより拓の反応を見たかったんじゃないか。」

レオに言われ拓が自分の顔を触っていると、２人が笑い始めた。
ちなみに、移動工程を当日まで説明しないのは盗賊に情報が漏れるのを警戒しての事らしい。

「俺も人を殺すことになるのかな。」
「そん時は、俺が守ってやるよ。しかし、いざとなったら躊躇うな。」

レオの言葉に、拓は頷いていた。