異世界薬剤師 ～緑の髪の子～

267気分転換

拓がアーネス、ゴンと共にペンデルトン侯爵領に帰ることになった。
移動の間も拓はずっと記憶の腕輪の情報を読み続けていたが、新しい情報は得られなかった。
他に有ったのは魔人との戦いの記録。緑の髪で引っ掛かった本だ。
１０００人もの兵士でやっと１体の魔人を倒し、１００人以上の兵士が亡くなっていた。
他にも緑の髪の子が導きの子として冒険する物語もある。
こんな本まで所蔵しているというのに、何故　緑の髪の子を呪いの子と呼んでいる理由も見つからない。

「拓さん大丈夫か？何か悩み事でもあるなら話してみるだけでも気が楽になるぞ。」

皆で岩の露天風呂に入っている時にゴンが心配して話しかけてきた。
記憶の腕輪の情報を読んでいる姿ははた目から見て悩んでいるように見えるのだろう。
拓は「ありがとう」とだけ言って笑った。

「明後日は小川のある場所での野営になるが、そこで２泊するぞ。
　拓、一日は薬草を取ったり料理を作ったりして過ごせ。」

様子を見ていたアーネスは、１日遊ぶ時間を設けることにした。
薬草採取や料理が遊びになるかは何とも言えないが、拓が記憶の腕輪以外の事に集中できればそれで良い。

「拓さん、今日は大量に薬草を採取するぞ。任せてくれ。」
「大将、俺も薬草採取の手伝いをしてきますよ。」

朝からガラとゴンが力こぶを作って張り切っていた。
３人で森の中に入ると、アーネスはテントの見張りを兼ねて釣りを始めた。
ガラとゴンは薬草だけでなく山菜や茸を大量に採取していた。

「拓さん、久しぶりに天婦羅を揚げてくれないか。」

ゴンの要望に応え、早速夕食に大量の山菜の天婦羅とアーネスが釣った魚の塩焼きを用意すると、恐ろしいスピードで無くなっていく。

「美味かった。やっぱり拓さんの料理は最高ですよ。」

ゴンが腹を叩いて満足そうにしている。
拓が食後のケーキを食べるのかと聞くと、あれだけ食べたというのに全員が食べるとの事。
拓が笑いながら用意していると、アーネスが拓の頭をゴシゴシと撫でた。

「やっと笑ったな。お前は頭が良いが、こういう所は本当に駄目だな。」

拓は少しスッキリした感じで、美味そうにケーキを食べていた。


ペンデルトン侯爵領に着くと、アーネスと拓はヘンデリック侯爵に挨拶をする。
その後、ヘンデリック侯爵と拓と２人で話すことになり、アーネス達は先に拓の住む小屋へ移動する。
ヘンデリック侯爵の話はサーシャが緑の髪をしていることをゴウが知っていたことだった。
拓の保証でしかないがゴウが話すことは無いと言うと、ヘンデリック侯爵は黙って頷いていた。
そして、今度は拓からギリス教に忍び込んで手に入れた緑の髪の子のリストについて説明する。

「ギリス教についての騒動は、我が領地にも伝わって来ている。もしかして拓殿が関わっていたのか。」
「ギリス教に対し反感を持っている人達が動いていたみたいで、それに乗じて行動をしました。」


ヘンデリック侯爵には拓の話が腑に落ちなかったが、拓に礼を言うと話はそこまでとした。
拓が部屋を出ていくと、ヘルガ、トウ、バン、ジャンを呼んでギリス教が緑の髪の子を見つけ出そうと必死になっていることを話す。

「分かりましたが、その情報は拓からですよね。無理をしたんじゃないですか。」
「それどころか、ギリス教の騒動に拓が絡んでいるんじゃないか。」
「そうだよね。そうでなければ忍び込むタイミングなんて分からないよね。」

トウ、バン、ジャンの言う通りだが、そこは気付かない振りをすることにした。