異世界薬剤師 ～緑の髪の子～

203通信網

「でね、ユンクったらヘルガに怒られたのよ。」

サーシャが通信の魔道具で話している相手は拓だった。
屋敷と拓の小屋に設置された通信機はそのままとなり、暇が有るとサーシャは拓やガラに連絡をしていた。
今日の話し相手の拓は

「そうなんだ。」「へ～、。」「凄いね。」

と答えながらも、薬作りをしている。
拓はシルビアにヘッドセットを作ってもらい、両手を使えるようにしてもらっていた。
そして３０分ほどすると、

「サーシャ、そろそろ話をするのは終わりにしなさい。」

ナターシャが止めに入り、通信は終わりになる。
今や通信魔道具はサーシャのお気に入りだった。
ナターシャが居なければ、１時間以上も話し続けていそうだ。
更に拓にとって面倒な事として、サーシャが通信を行う時間に合わせて時々オーヘンが拓の小屋に訪ねてくる様になった。
当然、目的はサーシャの通信を受ける為だ。この間は

「何だ、サーシャか。何か有ったのか。」
「何でお兄様が拓の家に居るの。」
「ちょっと拓に用事があってな。魔道具が鳴るので思わず取ってしまったよ。」
「最近、良く拓の所に用事が有るわよね。」

拓の所に来てから、ずっと通信魔道具の前でウロウロとしていた。
そして、ガラが入れた紅茶を飲みながら話し続ける。
この際、オーヘンとサーシャの部屋に通信魔道具を設置してはどうかと思ったが

「家の中で通信魔道具を使ってどうするのよ。」

とサーシャが断っていた。
屋敷と拓の小屋の間も同じ敷地内に有るので、通信魔道具を使う必要が有るかは疑問だが・・・


町に情報網が出来上がり、迅速な意思疎通が出来る様になったのだが、その効果は想像以上に大きかった。

「町の中に情報網が出来るだけで、思った以上に変るわね。」
「正確な情報管理、通達ができるからね。」

シルビアが拓の所に息抜きに来ている。
今では、拓が元居た世界での交番のようなのも作られ、町の中での事はリアルタイムで騎士団の所に情報が上がる。
更に、町から少し離れた所に見張り台を作り、町と連絡網を繋げる試みが行われる。

「シルビアさんは、この先どうするの。」
「どうするって？」
「ほら、通信魔道具にとって、ペンデルトン侯爵領は良いモデルケースになったじゃない。
　ここを見てもらえば、他の貴族領にも設置したいと言ってくるんじゃない。」
「その前に、拓ってこうなると見越してた？」
「まさか、こんなに上手くいくとは思ってないですよ。」

シルビアは拓の事を疑わしそうに見ていた。
情報網の形や交番の設置まで、全ては拓の提案を元に作られていたからだ。
実際の所、拓は情報の重要性は理解しているので、この結果を想定して情報網に対する案を出していた。

「まぁ、良いわ。
　設置依頼が来るでしょうね。でも、この技術は売ってしまうつもり。
　私が本当に作りたいのは、無線の通信魔道具だから。
　それも、奴隷契約の呪いを使った通信を応用すれば何とかなりそうなんだけど、具体的にどうしていいのか分からないのよね。」
「シルビアさんって、技術者なんですね。
　金儲けはしないんですか？資金が潤沢になれば開発資金にも困りませんよ。」
「そんな事をすると経営に時間が取られて開発が出来なくなってしまうわ。」

シルビアの話では、以前に同じ様な事があり、自由が効かなくなってしまったらしい。
既にガレド商会の会長ヨーゼフに通信魔道具について連絡を入れて有り
来年には、ペンデルトン侯爵領の視察に来る手はずまで整っていた。