異世界薬剤師 ～緑の髪の子～

187食べ歩き

山サソリを使った料理店は、ロマニュ子爵自ら案内をしてくれる。
町の状態を調べる目的も有るらしい。
シレーヌも同行する。
今夜と明日で７軒周る予定で、今夜は２軒。
２軒とも料理は美味く、全員が満足していた。特に拓は

「苦みを取り切らずに、味のアクセントとして残すなんて考えもしませんでした。」

と料理人の発想に感心し、自分でも試してみようと記憶の腕輪で料理の写真とコメントを記録していた。
そして、屋敷に帰ってくると拓は剣を振ってトレーニングを始めた。

「拓、どうした。お前が夜にトレーニングをするなんて珍しいな。」
「明日は５軒も回るなら、今日の分のカロリーを消費しておこうと思って。」
「お前は本当に変な所で頑張るな。」
「爺ちゃん、大量に食べられる魔法とか無いかな。もしくは胃のストックを用意するとか。」
「そんなの有るわけ無いだろう。」

フォスターが呆れていたが、せっかくだからとガラが拓の打ち合い相手を務めていた。


２日目。拓は朝から体を動かし、体調を万全に整えていた。
今日は、皆で町中を歩きながら店へと向かう。
護衛を減らしているとはいえ目立つ為、拓とガラはロマニュ子爵から少し離れて後ろを歩いていると

「拓殿、ガラ殿」

と声を掛けられ振り向くと・・・
ベリル薬剤師の工房で門番をしていた男が屋台から手を振っている。

「今日は。今日は門番の仕事はしないのですか。」
「今日は休みで弟の店を手伝っているんだ。
　それよりも２人の前を歩いているのは、この町を治めているロマニュ子爵だ。
　視察も兼ねて普通に歩いているが気を付けた方が良い。」

門番の男は拓とガラが知らずに貴族の後ろを歩いていると勘違いしていた。
すると、拓の背後から

「拓、この町に知り合いでも居たのかしら。」

誰よりも目立つ、縦ロールの髪のシレーヌが声を掛けてくる。

「シレーヌ様。」

門番の男は驚きながらも直ぐに頭を下げるが

「薬剤師のベリルさんの工房を伺った時に知り合いました。
　せっかくなので、食べてみましょうか。」

拓は至ってマイペース。
屋台で売っている串焼きを３本購入し、ガラとシレーヌに手渡す。
更にロマニュ子爵まで寄って来て面白そうだと購入したが、店の方は異常な緊張感の下で対応する羽目になる。
ただ、ロマニュ子爵が屋台の前で「美味い」と言って食べていたので、
それを見ていた人達が屋台に並び、休む暇もなく売り続けることになっていた。


門番と別れ、目的の店に着くと本日の山サソリ料理の食事が始まった。
１軒、２軒・・・

「まずい、ペース配分を間違えた。胃に最後の1軒分の余裕が無いかも。」

拓が腹をさすっていると

「拓殿、最後の店に行くまで時間が有る。
　その間に、町を散策する予定なので安心してくれ。
　私も腹が一杯で、少し動いた方が良いからな。」

笑いながらロマニュ子爵が話しかけてくる。
当然、町の散策は視察を兼ねていて、店や畑、市民の居住区へと色々歩いた。
この短期間で冒険者達が山サソリを狩り、それを食料として供給する流れが出来上がっていた。
そして、アーネスの行った販売網拡大も成功し、何処に行っても活気が戻って来ていた。
ただロマニュ子爵と行動すると目立つので、拓は途中から気配を消していた。


最後の食事が終わると

「お陰で、この町に活気が戻って来た。
　改めて礼を言いたい。
　町を、民を助けてくれてありがとう。」

ロマニュ子爵が礼を述べた。
今回、ロマニュ子爵がこのメンバーで視察をしたのは、活気が出てきた町をアーネス達に見て欲しかったためだった。

「こちらこそ、この町の力になれて光栄です。」

代表で応えたアーネスを見て、拓は嬉しく思っていた。