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159ロシアンルーレット

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壁の向こうは遺跡の中の何処かに通じていた。

「拓、遅かったけどどうかしたの。」
「最後にリッチと話をしていたんだ。遅くなってごめん。」

心配するサーシャや皆に謝り、自分達が抜けて来た壁を触ってみるが

「ここも一方通行みたい。魔力の流れも確認できないわ。」

サーシャの言う通り、反対側に抜ける事はできないみたいだ。

ユンクが探索魔法で周囲を調べていたが、自分達の位置も分からずにいた。
ガラが遺跡の祭壇の所に居るので、拓が大体の場所を把握し皆が待っている祭壇まで戻ることが出来た。

「皆、無事だったか。」

皆で帰還を喜んでいたが、拓はガラに力一杯抱きしめられ喜ぶ前に力尽きていた。
4人は地下の洞窟で起きた話をリッチの事を隠して話した。
そしてサーシャが祭壇を確認したが魔力が殆ど無く、また起動させるには時間が掛かるみたいだ。

「しかし、地下に光の結界か。一体、何のためにそんな物が作られたのか。」

アルバート侯爵が考えていたが、理由を知っている4人は話すことは無かった。
考えるのは後にし、外に出ると

「未だ外は暗いのか。朝までひと眠りしようか。」

拓はそう言ってテント型の小屋を2つ出すと、アルバート侯爵とオーシャンが驚いている。
このメンバーの中で保有魔力の事をある程度オープンにしておけば後が楽だと考えての行動だったが

「拓さん、何でそんなに迂闊に行動するんだ。」
「ガラ言う通り。これは只のドジよ。」
「こればかりは注意されても仕方ないだろう。」

ガラ、シルビア、更にドクスから注意されてしまった。
拓は一応さりげなく知らせようとした事を説明したのだが、

「何処がさりげないのよ。拓にはアルバート侯爵とオーシャンが見えないの。」

シルビアが呆れながら言うと、ガラとドクスも頷いている。

「確かにさりげなさとは何かと思う所があるが・・・拓殿は本当は上級魔導士なのか。」

そのアルバート侯爵が拓に訪ねてくる。
拓が初級魔導士だが保有魔力が多い事を説明すると笑っていた。

「これが、拓殿が一緒に居れば安心出来る理由か。
 これはヘンデリックも勝手に言う訳にはいかないな。
 拓殿、改めて皆を保護してくれてありがとう。
 私もオーシャンも他言しないことを誓おう。
 しかし、初級魔導士だと言うのなら、拓殿は剣術や武術を身に付けないのか。」

アルバート侯爵の言葉に、拓は困った顔で答えた。

「その辺の才能は無いみたいで。」


野営の準備が終わると、

「休みを取る前に、少しいいかしら。
 大丈夫だと思うけど、念の為にポーションを飲んでおいたらどうかしら。」

シルビアがゲートを開いて取り出したのは、不透明な瓶に入ったポーションを人数分。

「何本だ。」
「2本よ。公平を期すために、私は最後に取るわ。」

ドクスとシルビアの会話を聞いて、拓がその場を離れようとしたが・・・

「全員参加だ。」

ドクスがニヤりと笑いながら、拓の腕を掴んだ。
中身は拓の作った味付きポーション。そして、この中の2本は失敗の不味い品。
拓の居た世界で言う所の、ロシアンルーレット。
全員に内容を話すと、

「面白い、ヘンデリックもやるよな。」
「当り前だ、ハズレを引いたアルバートの顔を見てやりたいからな。」

侯爵2人までが乗り気になってしまった。
トウ、バン、ジャンまでも楽しそうに盛り上がっている。
全員がポーションを選び、シルビアの掛け声で一斉に飲むと

「「「美味しい」」」

との声とは別に、思いっきり顔をしかめる2人。皆が笑う中

「ヘンデリック侯爵、シルビアさん、水を飲んで。」

拓が直ぐに水を入れたコップを2人に渡していた。
落ち着くと、ドクスとシルビアは拓が保管している残りの味付きポーションと不味い失敗作を全て購入していた。


次の日、屋敷に戻り 拓は温泉に皆を誘ったのだが、付き合ったのはガラだけだった。

ユンクは魔法の練習をすると言って特訓を始め、サーシャとクリスティーヌは許可が下りなかった。
ドクスとシルビアは部屋でくつろぎたいと言い、他のメンバーは、護衛として城から離れる訳にはいかなかった。


「やっぱり、温泉って良いな。
 せっかくの景色と温泉なら、ノンビリしたいよね。
 そうだ、帰る前に温泉の湯を手に入れて帰ろうか。」

温泉に浸かりながら拓はチートな収納力を使った楽しみを考えていた。
ただ、湯の華という温泉の元も大量に購入していたので、ガラとしては無駄の様に思えてしまうが
拓の空間魔法の収納量に余裕が有るのなら特に言う必要は無いだろう。
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