異世界薬剤師 ～緑の髪の子～

157裏切り

拓がリッチと話している間、サーシャ達はこの部屋に続いている洞窟を調べている。
この空間に続く洞窟はもう１つあり、進んでいくと鍾乳洞に繋がっていた。
空気の流れを感じるので、何処かで外に繋がっているのだろう。
そして、この洞窟で数体のアンデット系の魔物と遭遇していた。

「多分、リッチに魅かれて集まって来るんじゃないかしら。
　どこかに、上の遺跡への通路が有っても良いと思うけど。」

リッチは、アンデット達が鍾乳洞の方から来ているのは分かっていたが
何処から遺跡の方へ移動しているのかは知らなかった。
サーシャがそう言いながら、上への通路を探している。
ユンクの探索魔法で、サーシャが魔力の流れが無いか確認をしていた。

「お話の所御免なさい。拓、報告を兼ねて話しをしたいのだけど良いかしら。」

戻って来たクリスティーヌが拓に話しかける。
拓はリッチから少し離れた所にテント型の小屋を取り出し、食事を取ることにした。

「結論から言うと、この付近には上への道は見つからなかったわ。」
「この部屋以外で魔力の流れも見えないし、上への道が有るという私の推測が間違っていたのかしら。」
「いや、サーシャの考えは正しいと思うよ。
　そうでなければ、遺跡にアンデットが入り込む理由が説明できない。」

拓はクリスティーヌ、サーシャ、ユンクが話しを聞きながら
サーシャが書き留めた地下洞窟の図を見ていた。

「こうなったら、俺達が落ちてきた所まで調べながら戻るのが良いと思う。
　ただ、その前に皆に提案が有る。」

そう言って拓が出した提案は、リッチを結界から解放するというものだった。

「そんなの危険よ。」「言っている事が嘘かも知れないだろ。せめて侯爵や師匠の意見を聞くべきだ。」

クリスティーヌとユンクが反対するが

「実験体として閉じ込められて、こんな所に１人で放置なんて酷くないか。
　それに、侯爵が来たら安全第一で、リッチを解放される事はない。」

拓が食い下がる。話は平行線を辿っていたが

「私も、解放するに賛成。
　拓の言う通り、お父様達が来たら、解放するチャンスは無いわ。
　それに、リッチの言っている事は信じていいと思う。
　殺されずに封じ込められているのが何よりの証拠じゃないかしら。」

サーシャの言葉に、クリスティーヌとユンクが考える。

「でも、拓はあの魔法陣を解除することが出来るのか。」
「サーシャの目が有れば多分何とかなると思う。」

ユンクの疑問に、拓が答えると

「分かったわ。私はリッチを解放することに賛成するわ。」
「俺も賛成するよ。師匠に自分で善悪の判断をするように言われているからな。」

クリスティーヌとユンクも拓の提案に乗ってくれた。

拓が何かリッチと話をして了解を取り付けると、手順を説明する。
先ずはサーシャが魔法陣に流れる魔力を見て、魔法陣の核と呼ばれる重要な場所を見つける。
シルビアの話では魔力の流れの中心になる場所らしい。
後は、その場所に闇の魔力を溜めた魔石をぶつけ、光の結界に揺らぎを作り
リッチが力づくで脱出するという方法だった。

全てはサーシャの魔力を見る力に掛かっている。

「この魔法陣に流れる魔力は複雑だけど、核と呼べそうな場所は３カ所有るわ。」

時間が掛かったが、サーシャが場所を特定してくれた。
拓はゲートを開くと、闇の魔力を蓄えた魔石を取り出し、クリスティーヌとユンクと分けた。

「サーシャ、その３カ所に魔力が流れ込むタイミングを教えて。
　俺達は、そのタイミングで魔石の中の魔力を解放する。
　リッチはその瞬間に結界から抜け出して。」

拓が指示を出して、それぞれが持ち場に着く。
サーシャが何度かタイミングを指示する練習をして、いよいよ本番

「行くよ、３、２、１、解放」

サーシャの掛け声で、クリスティーヌとユンク、そして拓が魔石に溜まった魔力を解放。
すると、魔法陣の淡い光が一瞬揺らいだ。
その一瞬にリッチが自分の闇の魔力を光の結界にぶつけ穴を開けて外に飛び出した。

成功にサーシャ達が喜んだのも束の間

「愚かな人間の子よ、我が解放されて感謝すると本気で思っているとは。
　自由になった今、我を抑えるものは何もない。」

リッチの笑い声が洞窟に響いた。