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144失敗作

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その日の夜、拓の小屋にシルビアとヘルガがルドルフ料理長の料理を持って来たのだが

「2人で訪ねてくるなんて珍しいですね。」

拓に迎えられて小屋に入るとテーブルの上には十分な食事。
スライムのダイフクまで一緒に食事をし、ドクスは酒まで飲んでいた。

「拓は無一文じゃなかったのか。」
「そうですが、食料は十分に保管していますので。ちなみに酒はドクスさんの自前ですよ。」

ヘルガが驚くのも仕方がない。
拓の空間魔法には1年は生活できるだけの食料が保存されている。

「ちょっと待って、拓は初級魔導士じゃないの。どうしてそんなに保存できるの。」

拓はシルビアに自分の事を話していなかった事を忘れていた。
丁度良い機会なので、拓は自分の魔力量と放出できる魔力のバランスがズレている事を説明した。

「面白いわね。抜けている所が拓らしくて面白すぎるわ。
 無一文になっても困ることは無いのね。」

結局、そのまま2人も一緒に食事をすることにしたのだが
シルビアが拓の横に座ろうとする前に、ガラが席を確保していた。
にっこりと微笑みあうガラとシルビア。
ただ、お互いを見る視線の間には火花が飛んでいた。

「それにしても、拓って何にお金を使っているのよ。
 拓のポーションなら結構な稼ぎになっているでしょうに。」

シルビアが拓に聞いてみた。
剣が白金貨3枚だとしても、拓なら十分に稼げていても問題ないはずなのだが・・・

「薬剤師として独立した生活をする為の生活必需品が高くて。」

拓はそう言うと、テント型の小屋や集めた魔道具について話し始めた。

「・・・拓って無駄な買い物し過ぎじゃない?
 そんなテント型の小屋を持っている薬剤師なんて居ないし、
 何でそんなに魔道具を購入しているの?自分の魔法で対応できるでしょ。」

シルビアは不思議に思っていた。

「テントは安全の為に必要だし、魔法より魔道具の方がかっこいいからね。
 正直、剣に興味が無かったので、あんなに高いとは思わなかったんですよ。」

拓は笑っているが、シルビアは呆れていた。
そして、拓は言わなかったがテント型の小屋以外で、最も高い買い物はガラの持っているマジックバックだった。
拓が熟成させるために寝かせておく料理以外は、全てガラの荷物が入っている。
ガラは拓に申し訳ない気持ちになってしまう。

食事が終わった所で、拓がヘルガに剣の代金の代わりに渡す薬について聞いてみると

「魔獣除けの薬と標準と高品質のポーション、後は出来ればで良いが化粧水が欲しい。」
「・・・」

拓でも初めの2つは分かる。しかし、まさかヘルガが化粧水を要求するとは。

「あら、拓って化粧水も作るのね。私にも売ってもらえないかしら。」

更にシルビアまで。
化粧水は大量に作り空間魔法でストックしてあるので問題は無いが、
拓はメイド達の美への執念を目の当たりにしているので、少し怖く感じてしまう。
2人にはナターシャに売っている貴族用を少し渡し、試してもらうことにした。
調子が良ければ、ヘルガの空間魔法では化粧水の品質が劣化してしまうので毎月渡すことにし
シルビアの空間魔法なら状態を保持することが出来るので、まとめて売ることになった。

「後ポーションですが、全て高品質でも問題ないですよ。」

ヘルガがヘンデリック侯爵への納品を気にしてくれているのかと思い、拓から話しかけるが

「アゼルド領に行く前に、サーシャ様とユンクを森に連れて行こうと思ってな。
 その為に持って行かせるから、普通のと高品質を混ぜて欲しい。」

それならばと、王都で実験的に作っていた味付けをしたポーションを取り出した。
並べたポーションの瓶には、番号の書かれた紙が貼られている。
それぞれに番号に対するレシピと味を記憶の腕輪に書き残していたのだが、書いた本人が読んでもどんな味だったのか分からないのも有った。
一応、ガトレ商会のジルとロイの点数やコメントも記載してある。
実際に並べてみると思っていた以上に種類が多く、飲んでいたガラも覚えていない。

「品質でなく味を変えるか。拓は面白い事を考えるな。」

ドクスも興味を持ち、5人で幾つかの味比べを行うことになった。
良い機会なので、拓は記憶の腕輪に味についてのコメントを書き加えていた。
個人的な好みも有るが、概ね良好な結果。
その中に番号も書いていないポーションが空間魔法で保存されていたので試しに飲んでみたのだが

「「「不味い」」」

全員が口を揃えて同じ反応をしていた。
普通のポーションより少し劣る味だが、他のが美味かったためにより不味く感じられる。

「そうか、思い出した。失敗作を残していたんだった。」

拓のうっかりに呆れながらも、どれだけ不味いのか全員で飲み比べまでしていた。

「拓、これの高品質版は無いのか。」

ドクスが聞いてくるが、拓は高品質のポーションだと品質が格段に悪くなってしまい上手く行かなかった事を話した。
皆が残念がっていたが、ドクスとシルビアは成功した味のポーションだけでなく、不味いポーションまで買ってくれた。

「俺は手持ちが無くなって助かりますが、何で不味いポーションまで買うのですか?」

拓が2人に聞いてみると

「面白いからに決まっているだろ。」
「ハズレが有った方が笑えるでしょ。」

何処で使おうとしているのか不安になる答えが返ってきた。
ちなみにヘルガも、訓練に使うのとは別に味付けポーションを受け取っていた。不味いポーションを含めて・・・
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