異世界薬剤師 ～緑の髪の子～

140完治

ガラの腕に有ったアンデットの呪いの模様は完全に消えた。

「未だ腕の力が戻らないか。」
「模様が消えても、ポーションを飲んで熱を持つという事は呪いが解けていないと言う事だ。
　これからが正念場だと思った方が良いだろう。」

そして、一日に飲む量は倍の２０本に増えた。
２０本飲まないと腕の熱は収まらなくなり、その間　腕に痛みを感じる様になっていた。

拓は記憶の腕輪に似たような症状が無いか調べているが、見つからない。
ドクスもガラの腕を調べているが特に異常は見当たらない。

そして今日、ガラがポーションを飲んでいると両腕の痛みで瓶を落としてしまった。

「拓、ガラにポーションを飲み続けさせるんだ。」

ドクスがガラの腕の様子を確認しながら、拓に指示をだす。
２０本も飲ませるとガラの痛みが治まった。
ガラは全身汗だらけで、神経を刺すような痛みだったらしい。
そして、ついに

「拓さん、俺の腕の力が少しだが戻って来ている気がする。」

ガラが手を握ったり開いたりして自分の力を試していた。
その様子を見て、拓が何かを考えていた。

「拓、どうした。何か気づいたことでもあるのか。」
「ガラの腕の力が無くなったのは、神経がやられているんじゃないかと。
　今の痛みは、ダメになった神経が戻って来ているかもしれない。」

ドクスは自分の質問に対する拓の意見を聞いて、何か考え込んでいたが

「とりあえず、明日からガラを抑える人が居た方が良いな。
　痛みが強くなるかもしれない。」

念のため、ガラの状態が落ち着くまで敷地から出るのは控える事にし、トウ、バン、ジャンに待機してもらうことにした。
ドクスの心配は当たりガラの腕の痛みは酷くなっていったが、ガラは痛みに耐え
トウ、バン、ジャンが手伝う必要もなくポーションを飲み続ける。
少しづつだが力が戻って来ていた。
そして痛みが出る様になって１０日目。
ガラの言葉を使うと、スーッと腕から何かが抜ける様な感覚が有った。
汗だくの状態になりながらも、自分の手を力いっぱい握りしめていた。


「拓さん、拓さん、俺の腕が、俺の腕が。」
「力が元に戻ったのか。」

拓が喜ぼうとしたが、ガラが拓に力一杯抱きつき涙を流し始めた。
力が戻ったガラの太い腕に抱きしめられ、拓の喜びは骨が折れるような痛さに消え失せ

「拓さんが、こんなに軽い。」

そのまま、ガラに持ち上げられグルグルと振り回され続けた。

「ガラ。喜ぶのは良いが、そろそろ拓を降ろしてやったらどうだ。」

何時までも回し続けるガラにトウが注意した時は、既に拓は疲れ切っていた。

「拓さん、すみません。俺嬉しくて・・・」
「本当に良かったよ。ただ、ちょっと腕の力を抑えてもらえないか。」

謝りながら拓の肩を掴むガラの力は強かった。
呪いが掛かっていた期間が長く、力加減が上手く出来ていない。


そのまま、トウ、バン、ジャンも一緒にガラの呪いが解けた事を祝う飲み会に突入。
この時のためにと、ドクスだけでなくシルビアまでが酒を用意してくれていた。
拓もゲートを開いて、ガラの好きな料理をテーブル一杯に並べる。

「それじゃ、ガラの腕が治った事にカンパイ！」

拓の音頭で宴会が始まり、ガラは何度も皆に礼を言いながら酒を注がれていた。

「ガラの腕が治ったのなら、次は俺の番だな。
　拓、ガラ、期待していろよ。この治療方をしっかり売ってやるからな。」

ドクスが楽しそうに言うが

「その事ですが、治療方法で儲けるのを辞めませんか。」

拓が止めに入る。ドクスが理由を聞くと

「治療法を知っても、大量のポーションが必要ですから。
　相手次第ですが、薬草採取を相手にやって頂き普通にポーションを売ってはどうでしょう。」
「相手にとっては願ったり叶ったりじゃないか。」

ドクスは呆れるが、ガラがどれだけ苦労をしてきたかを知っている拓としては、必要以上に儲けを求めたくなかった。

「分かった、分かった。ただし、俺が気に入った貴族限定だからな。
　俺と拓でポーションを作ると言う事で、利益は折半でどうだ。」

ドクスは拓の意見を受け入れてくれた。
その日の夜、拓は皆と一緒に飲み続け幸せそうな顔で机にうつ伏して眠ってしまった。

「本当にガラが治って嬉しいのね。
　こういう所はフォスターさんにそっくり。」

シルビアは、そう言いながら拓に薄手の掛物をして、ホホにキスをしていた。
一瞬ガラが反応したが、直ぐに嬉しそうに拓の寝顔を眺めていた。