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091ヨーゼフ

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ジルは周囲を監視しながら、今回の襲撃について考えていた。
襲撃するなら月明りの無い新月を選ぶと考え、子供達をアーネスのテントに待機させていた。
本当なら拓も子供達と一緒に待機させるつもりだったが、相手を罠にかけるならと子供のテントに残った。

予想は的中し、無事に襲撃者を撃退することが出来たが
2人だけだったら、守り切ることが出来ただろうか。
頭に浮かぶのは最悪の事態だけだった。

ガレド商会当主が決まるまで何が起きるのか分からないので、あえて外に連れ出したが王都に居れば良かったのだろうか。
ここで仮定の話しをしても意味が無いが、どうしても頭から離れない。


次の日の朝、朝食を取るとテントを畳み王都への移動を開始を始めたのだが

「拓さん、大丈夫か。」

午後にはガラが拓を引っ張る形で移動している。
昨夜の襲撃からニック、ジョン、アンリは気持ちが落着いたものの
拓は食事もまともに喉に通らず、水しか飲んでいない。

「大丈夫。ただ、少し力が入らないだけ。
 盗賊との戦いを何度もイメージしていたけど、現実は想像を超えるよね。」

子供達の手前何ともない様に言っているが、あそこまでのグロい状態は考えもしていなかった。
アーネスにとっても、拓がここまでショックを受けるとは想定外だった。
本来なら、数日休ませてやりたかったが、あの場に留まる方が危険なので仕方がない。

その日の内に王都に辿り着くと、門番に賊に襲われた場所と状況を説明する。
その間、拓は逃げた女の似顔絵を描いていた。
記憶の腕輪に記録した女の顔を紙に写し上からトレースしているので、かなり正確に描かれている。
感心して見ていた門番は女に思い当たる様で、手配書の確認をすると

「皆さんが会ったのは、この女ではないですか。」

そこには、昨夜戦った女の似顔絵。メッサリナと言うらしい。
強盗、傷害、殺人と色々と犯罪を犯していた。

盗賊達の討伐連絡書を貰い、先ずはアーネスの屋敷に行くことになった。
盗賊討伐には懸賞金も出るが、倒した盗賊の確認が終ってからとなる。


アーネスの屋敷に戻り、フォスターに盗賊の事を話すと

「子供を狙うとは、腐った輩も居るものだ。」

温厚なフォスターも頭に来た様だ。
ガレド商会の総会が終わるまで、フォスターの小屋で子供達を匿うことにし
フォスター、アーネス、ジル、ロイ、そしてゴンで警備をするが、

「流石に対人戦は拓にはきつかったか。ガラ、暫く付き添っていてくれ。」
「分かりました。」

拓とガラはアーネスの屋敷で休むことになった。
流石に、今の拓では足手まといでしかない。
結局、拓は次の日もまともに食事が出来ず、
まともな食事が出来る様になったのは更に2日目の朝からだった。

拓の元の世界での生活で、普通の生活で人を殺める事はない。
それどころか、動物も自分で殺めて捌く事すら殆どの人は行ったことはなかった。
それはニュース等で見聞きする非日常。
その世界で何十年も生きてきた以上、仕方が無いだろう。

拓がまともに食事が出来る様になって、ガラはあえて拓と剣での打ち合いを行う。
対人戦で精神的にショックを受けた冒険者が、剣での打ち合いが出来なくなる場合がある。
酷い場合には、剣を持つだけで恐怖心を掻き立てられる。

「拓さんは、精神的にも大丈夫みたいだな。」
「心配かけたね。ガラのお陰で、助かったよ。ありがとう。」

ガラと拓が剣での打ち合いをしているのを見つけて、ニック、ジョン、アンリがやってきた。

「拓さん、もう大丈夫ですか。」
「巻き込んでしまい、申し訳ありませんでした。」
「私達の所為で、ごめんなさい。」

拓を心配し、謝る3人に

「大丈夫、大丈夫。もう、この通り元気になったから。
 それに悪いのはメッサリナで、今回は自分でやることを決めた事だから。
 大体、子供を狙う腐った連中は嫌いなんだ。」

フォスターと同じ事を言う拓に、ニックは少し笑ってしまった。

「これでも僕は拓さんと同じ年なんですよ。
 拓さんって、本当にフォスターさんと似ていますね。」

血は繋がっていないが、そう言われて拓は喜んでいた。
その後、襲撃は無くガレド商会の総会が終わった。


それから暫くして

「拓さん、ガラさん、居ますか。
 店の方にガレド商会の方々が来られていて、大将が2人にも来て欲しいとの事です。」
 
ゴンが拓とガラを呼びに来た。
2人がゴンに連れられて行くと、
騎士団の人が2人いて、他にニック、ジョン、アンリに護衛のジルとロイ、そして男が1人 アーネスと話をしていた。

「来たな。討伐した盗賊の検証が終わったらしい。
 それから、こちらはヨーゼフ殿。ガレド商会の当主だ。
 こちらは拓とガラ、私と家族同然の付き合いをさせてもらっている。」

アーネスが紹介をすると

「拓殿、ガラ殿、この度は子供達を救ってくれてありがとうございます。」

ヨーゼフが礼を言うと、皆が頭を下げた。
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