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088エノヒラダケ

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流石に拓も子供達の前で毛布に包まってウダウダとする訳にもいかず、皆で遊ぶことをにした。
次の日は、朝から空間魔法の収納からスコップを2つ取り出し、皆で雪の像を作り始める。
一日かけて作り上げたのは、雪の魔獣。
拓が水魔法で雪の塊を細かく削り、繊細な出来上がりだった。
他にも雪だるまや雪ウサギ等がテントを囲んでいた。
暗くなってくると、光の魔道具で雪の像をライトアップし暖かい飲み物を手に満足気に眺めている。

「良くこんなのを作り上げたよな。本当に手先が器用だな。」
「水魔法で水流を調節しながら細かく削ったからね。自分でも、会心の出来だと思うよ。」
「会心の出来は良いが、そろそろ晩飯の準備した方が良いぞ。」

アーネスに言われて拓がテントの方を見ると、ニック、ジョン、アンリが待っていた。

「待たせてゴメンね。よし、今夜はカレーにしようか。」

カレーと言われても、子供達はそれが何か分からずにいたが

「おぉ、それは良いな。カレーを食べるのは久しぶりだ。」

アーネスが喜んでいた。しかし

「アーネス小父さんは、そっちのグループだから。
 これは、こっちの冬キャンプ体験組の食事だよ。」 

拓の言葉にアーネスの喜んだ顔が固まってしまった。
そのまま、ガラの方を向くと

「私の方は非常時の食料しか持ち合わせていません。」

ガラにもダメ出しをされると拓の方をじっと見てくるので、拓は仕方なくジルに許可をもらい皆で同じ食事をすることにした。

「これが、カレーですか。とても美味しいですね。」
「うむ、初めて食べる味だ。アーネス商会ではカレーを売らないのか。」

ジルさんとロイさんも褒めてくれたが、商品化の予定が無いと聞くと残念がっていた。

拓は元の世界での知識で一儲けしようと考えたこともあったが
自分と同じ世界からやってきた人間が居た場合、相手によっては面倒な事になる可能性もあり止めていた。
フォスターとも相談したが、同じ考えだった。
アーネスは拓の事情を知らないが、拓の商品化はしないという意思を聞いてからは一切口を出しすることはしない。


その日の夜、子供達に薬草や薬について学校で教わった事を聞いた所で

「明日は薬や薬草について実地研修でもしてみようか。
 俺でも少しは教えられることが有りそうだね。」

拓の提案で、冬の森を散策してみることになった。
一番張り切っていたのはアンリで、日が昇る前に皆が起こされ
日が昇り始めるのと同時にスキー板を付けて森への散策が始まった。

「この雪の中で凄い薬草というと雪華草だけど
 雪の下では見えないから、周りの木から生えて居そうな場所を探し出す。
 そうだな、例えば木の根元とか。
 といっても、大抵は見つからないで空振りが多いけどね。」

拓はそういったが、物は試しと皆で幾つかの木の根元の雪を掘り始めた。

「拓さん。もしかして、これがそうなの。」
「「「えっ」」」

アンリが掘った場所を見ると、確かに雪華草が花を付けていた。

「アンリちゃんは凄いな。これが雪華草だよ。
 これだけでは薬にはならないけど、他の薬に混ぜる事で飛躍的に効果が上がる。
 珍しい花だから、押し花にでもしてみる。」

拓がアンリに聞くと、アンリは

「拓さんは薬剤師なんでしょ。だったら上げる。」

そう言って、花を拓に渡してくれた。
拓は礼を言って、ゲートを開いて瓶を取り出すと、その中に花を入れて大切にしまった。

「薬じゃないけど、この木の枝を細かくして煮出した汁で生地が綺麗に染められるよ。
 白い布を持っているから、後で試してみようか。」

拓はそう言って、皮を少し切っておく。
冬の森の中でも、拓にかかると話すことには事欠かない。
子供達だけでなく、大人も拓の説明を楽しんでいた。すこし森の奥に入った所で

「アーネス小父さん、ガラ、エノヒラダケがある。」

拓が突然大声を出すと、キノコが付いている木の所へ滑りだし、直ぐに袋を取り出すとキノコの採取を始めた。

「拓さん、冬にエノヒラダケは珍しいかもしれないが、別に特別なものではないだろう。」

ガラが言う通り、エノヒラダケは夏場によく市場に出回り、特別なものではない。
それなのに、ここまで拓が食いつく理由が分からずにいた。

「真冬のエノヒラダケは凍らない様に、糖分を体内に溜め込む性質があるんだ。
 夏場のとは、全く別物と言っても過言ではない。」
「良くわからないが、どう違うんだ。」
「凄く、甘いって事。今夜はエノヒラダケ祭だよ。」

拓に急かされ、皆でエノヒラダケを大量に採取した。
その後も拓の講義が続いていたが、拓があれだけ喜ぶ冬のエノヒラダケの事が気になり真面目に聞いていたのはガラだけだった。


「あの、そんなに見られると作業しにくいです。」

その日の夜は、取ってきたエノヒラダケを使った料理を拓が作ると言うので、全員が拓の作業を眺めている。
アーネスは良く知っているので、少し離れて休んでいた。
そんな中で拓は下拵えを終えて、料理に取り掛かった。

先ずはそのままを味わえる網焼き。
良い感じに焼けた所に醤油を垂らすと香ばしい香りが広がる。

「「「美味い」」」

その後も和え物、炒め物、餡掛け、天ぷら、ダシを利かせった茶わん蒸しと拓はつまみ食いをしながら調理を行い
最後に、炊き込みご飯とお吸い物を出して料理を〆た。

「本当に美味しかった。何時も食べているのとは味も香りも全く違うわね。」
「それもそうだが、拓殿の料理は凄いな。料理人を目指せるんじゃないか。」

ジルさんとロイさんが拓の料理に満足していた。
子供達も喜び、特に茶わん蒸しが気に入った様だ。
この世界では蒸し料理は広まっていなく、茶わん蒸しの食感は初めてだった。

拓は料理を作るため、落ち着いて食べることは出来なかったが
皆の喜ぶ顔を見て、たまにはこういう場も良いと思っていた。
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