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075お布施

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ギリス教の教会は正に神殿だった。
真っ白な石畳の階段を上がると、巨大な白い柱がそびえ立っている。
中に入る扉は開かれ、自由に参拝が出来るようだ。

拓とガラが中に入ると広い部屋になっていて、前面の祭壇に向かって参拝者達が祈りを捧げている。
教会関係者だろうか、周囲には白いロブを着た人が数人立っていた。
横を見ると「書庫」と書かれたプレートがあり、ガラは書庫への入り口に立っている教会の人に話しかけた。

「こちらの書庫にある本を読むことは出来るのでしょうか。」
「はい、こちらの本は信者全員に無料で公開されています。
 ただし、書庫から持ち出すことは出来ませんので、こちらで読んで頂きます。」

中を覗くとテーブルが用意され、数人の信者が本を読んでいる。
入るのは無料と言いつつ、何故かお布施というものを要求される。
ガラが拓と2人分として銅貨1枚を渡すと、笑顔と共に中に通された。

棚には、聖書から歴史等、ギリス教に関する書物だけが並んでいる。
俺が調べたいのは緑の髪と呪いについてだ。
本を見てみると、教祖の説話をまとめた書物まで有る。

ガラは適当な1冊を取り出してテーブルで読む振りをし
拓は、棚にある本を全て記憶の腕輪に読み込んだ。
読み込むといっても、本を開く必要も無く、記憶の腕輪を経由して魔力で本を数秒間包むだけで内容を取り込む事が出来る。

拓は本の背表紙をなぞりながら読み込みを行い、時々本を開いては直ぐに戻していた。
傍目から見て、暇を持て余している様に見えている。
本はそれほど多くなく、およそ1時間程で作業は終った。

拓がガラの様子を見ると、振りではなく真面目に読んでいたので
腕輪の機能を使い、「緑の髪」が一番多く出てくる本を選んでガラの横に座った。
その本は、緑の髪の子の災害を引き起こす力が悪魔を呼び寄せてしまったという物語。
そして、復活した悪魔は聖女によって封印されるという結末だった。
物語としては面白いが、緑の髪をしたサーシャの事を思うと何とも言い難い内容だ。

拓が本を読み終え顔を上げると、ガラは既に本を読み終え静かに待っていてくれていた。

「ごめん、ちょっと没頭していた。声を掛けてくれれば良かったのに。」
「何を言っているんだ。待つに決まっているだろ。」

ガラはそう言うと、俺が記憶の腕輪に読み込んでいたとき、他の方が読んでいた本を渡してくれた。
外に出ると、既に暗くなりつつあり、神殿の柱には明りがともり昼間とは違う雰囲気を醸し出していた。

「結構、長居したね。
 爺ちゃんが心配しているかも知れないから、急いで帰ろうか。」


拓とガラが家に帰ると、

「さっきまで、アーネスとコーギが来ていたぞ。
 滑車や改善提案に対する礼と薬製造の依頼が有るそうだ。」

フォスターに言われて拓は少し考えてしまった。

「何かすることが有るのか。」
「本格的な冬が来る前に、王都の周辺を散策しようと思って。」
「なるほど、アーネスの考えていた通りだな。
 拓なら、王都周辺を散策する頃だとも言っていた。
 納品は1ヶ月後で良いそうだ。ついでに材料も受け取っている。」

苦笑いをしながら、拓は薬の材料を受け取った。
直ぐに食事の用意をし、今日してきた事を話していると

「拓は王国図書館で何を調べたかったんだ。」

フォスターが聞いてくるので
拓が、ガラの呪いと、緑の髪の人について調べようとしていた事を話すと
今まで笑顔だったフォスターの表情が一瞬にして厳しい顔つきになった。

「ガラの呪いについては調べてみる価値は有るが
 緑の髪の人については何も記録は無い。」

拓とフォスターは森の中の小屋に2人暮らしをしていた時、緑の髪の人について色々と話していた。
未だ胎児だった時に、大量の魔力を浴びると緑の髪に成ってしまうのではないか
というのは拓の考えだ。
フォスターは王都に来て、この件について調べてみたが、緑の髪についての話は数冊の物語にしか出て来なかった。
それも、魔人召還の生贄にされる様な話だった。
拓の読んだ本の話をすると、フォスターが読んだのと同じだった。
フォスターが拓に上げた緑の髪の子供が冒険する物語は、昔旅をしていた時偶然に手に入れた物で
王都で本を扱っている店を全て調べてみたが、その手の本は置いていなかった。

記憶の腕輪に読み込んだ内容を検索してみたが
緑の髪で生贄に関係しない内容としては、教祖の話に出てくるだけだった。
どうやら、緑の髪については、書物に記載するのも嫌がられる事らしい。

「緑の髪を永久に別の色に変えることは出来ないのかな。」
「髪の色を変える方法と、ガラの呪いについては、儂が調べてみよう。
 儂も拓が興味を持たなかったら気にも留めなかったが
 緑の髪については、余り公言しない方が良いだろう。」

フォスターは王立図書館の入門書を持っていた事に拓とガラは驚いた。

「もしかして、爺ちゃんって貴族だったりするの。」
「そんな事有る訳無いだろう。
 色々と伝手を使って入門書を手に入れただけだ。
 本当に拓は想像力が豊かだな。」

フォスターは笑っていた。
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