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069拓

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******(拓)

俺はこの世界とは違う、魔法の無い科学が進んだ世界の日本で育った技術者だった。
ある巨大化学プラントの開発を行い、そこで起きた大爆発と共に死ぬつもりだったが
気が付いたときには森の中で10歳位の子供の姿をしていた。
途方にくれている所に現れたのが、フォスターこと爺ちゃんだった。
何でも異常なエネルギーを感じてやって来たらしい。
自分の置かれた話をすると、

「別の世界だと。面白い話が有る物だ。
 どうせ行く当ても無いのだろう。とりあえず儂の所に来るといい。」

そうして、森の中での2人の生活が始まった。
爺ちゃんは俺の居た世界について興味を持ち、色々と聞いてきた。
車の話をすれば、何故 馬も無くて走れるのか
飛行機の話をすれば、何故 鉄の塊が空を飛べるのか
と、疑問に思う事を俺が分かる範囲で技術的な説明をしていく。
余りにも俺の話を素直に聞いてくれるので、

「爺ちゃんは俺を疑ったりしないのか?どう考えても怪しいだろ?」

と聞いてみると

「確かに怪しいが、拓の話が想像の物だとする方が無理があるだろう。
 車や飛行機の仕組みにしても、理屈は分かったが我々には発明できない技術だ。
 個人の発明としてより、別の世界の技術としての方が納得できる。
 それに、話していて拓が見た目通りの歳ではないのは分かるからな。」

そう言って笑っていた。
逆に俺はこの世界の事を教わった。
この世界は、過去に高度に発達した文明が存在し1度滅んでいた。
それも魔人の襲撃だったらしい。

「その魔人は未だ居るのか?」
「いや、文明の崩壊と共に消えたと言われている。」
「ちなみに魔人と言う事は、もしかしてこの世界って・・・」

魔法が存在する事を知った。
そして、自分が魔道師としての素質が有ると分かり調べてもらった所

「やはり、拓は異世界から来ただけあり特殊だな。
 時空魔法による収納量を考えれば、儂を軽く超える魔力を持っているはずなんだが・・・
 全属性を使いこなせるにも関わらず、初級魔道師か。」

保有魔力は多くても、出せる魔力は少しだけと残念な結果。
それでも魔法を使えるのは楽しく、爺ちゃんが驚く程の繊細な魔力制御が出来るようになれた。


爺ちゃんの魔法は強力で、
たまに出没する魔獣は、爺ちゃんの魔法で1激で仕留められていた。
俺が保有している魔力を考えると、その位は出来る筈だと言われ、
攻撃魔法の訓練をしてみたが、身に付けることは出来なかった。
しかし、俺の場合は魔力だけは大量に保有しているので、どれだけ使っても切れることは無い。
お陰で、魔法という便利な道具を使い快適な日常生活を過ごせる様になった。


アーネス小父さんがやって来たのは俺がこの世界に来てから1ヶ月位経ってからだろうか
爺ちゃんは、俺の事を10歳の孤児として紹介された。
俺の保有魔力の事は話したが、別の世界から来て見た目通りの年齢でない事は教えていない。
おかげで、「オッサン臭い」と言われているが、仕方が無いだろう。

アーネス小父さんにも、親切にしてもらい
剣術、武術や商人としての目利きを教えてもらったのだが

「拓は、物事を覚えるのは長けているが、剣術、武術の才能は無いな。」

と言われてしまう状態だ。
俺の場合、元の世界の時と全く変わらない運動能力で特に優れている訳ではない。
この世界で生きて行くなら身を守る手段が有ったほうが良いと思い考えた末
闇魔法で姿を隠し、薬を使って戦う事にした。

「内包している魔力量と操作を考えると、残念な戦い方だが仕方が無いか。
 なら、これをやろう。」

そう言って爺ちゃんから渡されたのは記憶の腕輪と翼の腕輪。

「古代の遺跡から発掘された魔道具で、なかなかのレア物だぞ。
 辞書代わりと逃げるのに使えるだろう。
 見た目は古臭いから、狙われる心配も無いしな。」

アーネス小父さんとの訓練で、気配を消し翼の腕輪で立体的な攻撃を仕掛ければ何とか試合が出来るようになった。
とは言っても、アーネス小父さんが手加減をした状態でも俺が負けることには変わりはないのだが・・・

記憶の腕輪については、スマホやコンピュータの様な物かと思い、色々と試してみると拓の世界のテクノロジーを超える魔道具だった。
この腕輪には作られた時代の魔法学や魔道具学、薬学、植物学、動物学から日常品などの情報が詰まっていた。
娯楽関係の情報は無く、技術のデータベース化をしたような物だった。
読むことも出来なかったが、動画に流れる言葉は同じだった。
そこで、現在の言葉と意味をつなぎ辞書の様な物を作り上げていった。
実際の作業は、現在の本を記録し、拓が読むことで記憶の腕輪が翻訳機能を形成していく。
大量の本を読めば読むほど性能が向上し、ほぼ問題なく翻訳が可能となった。

その内、記憶の腕輪の情報で薬を作り、魔獣との戦い方も覚え、
行動範囲を広げるため、アーネス小父さんに俺が作ったポーションや薬を卸す代わりに、銃やテントを発注して貰った。
銃やテントは俺が基本的な設計を行い、細かい所を爺ちゃんに修正してもらった物だ。
銃はもっと破壊力を付けたかったが、武器としての科学技術をこの世界に持ち込むのは嫌だった。
それでも今までのゴムで飛ばしていたより、攻撃精度が上がり便利にはなっている。

森での生活も5年が過ぎ、この世界での推定年齢15歳となり1人立ちを考えたが、
恩人である爺ちゃんを森に置いていくわけには行かない
そもそも、何で爺ちゃんが森で1人暮らしをしているのかも知らなかった。
俺の気持ちを察してか、アーネス小父さんが自分の家の離れで過ごして貰うように説得してくれた。
俺の独り立ちが決まった所で

「良し、拓の行く道を儂の占いで決めてやろう。
 特に目的が無いのなら、その方が面白いだろう。」

そんないい加減な事で、俺はこの世界での地図の見方を知らずに出発し、見事に迷子になったのであった。
元の世界では、地図の上は北だった。
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